会は尚、盛り上がっていたが、友紀は早めに席を立った。明日から早速、高木の担当していた物件巡りがスタ-ト、いつもより早めに家を出なくてはならないからだった。


「漆原にも言ったけど、アイツが何をチェックしてるのか、あとで教えてちょうだい。どうせ、人の上げ足を取ろうとしてるんだろうけど、そうはさせないから。」


厳しい表情で言う高木に、友紀は頷いては見せたが、内心ため息をついていた。


翌朝、眠い目をこすりながら現地に到着。待ちあわせの時間にはまだ30分ほどあるので、どうやら一番乗りのようで、友紀はとりあえずホッと一安心。


待つこと10分ほどで漆原が登場。


「次長まだですか?」


「うん。」


「よかった。あの人より遅く着いたら、なに言われるかわからないと思ったから、結構必死だったんですよ。」


「やっぱり。私も同じ。」


考えることは同じだねと、2人は顔を見合わせて笑う。そして2人は厳しい(煩い?)新上司の到着を待つが、待ち合わせ時間になっても、一向に現れる気配がない。


「なんかいろいろ言ってましたけど、いきなり遅刻ですか。」


漆原は呆れた声を出すが、友紀はなんとなく嫌な予感がしていた。


「次長の携帯の番号って、知ってる?」


「プライベ-トのは知りませんけど、ビジネスのは前の次長が使ってたのを、そのまま引き継いでいるはずですよ。」


「そっか。」


漆原の言葉に頷いた友紀は、慌てて自分の携帯を取り出した。そして、コールすること2回


『滝だ。』


重々しい声が友紀の耳に響く。


「おはようございます、杉浦です。次長は今、どちらに・・・?」


『建物の中だ。』


「わ、わかりました。すぐに向かいます。」


嫌な予感が的中してしまい、焦りながら電話を切った友紀は


「次長、もう中にいるって。」


と、漆原に告げると同時に走り出した。


「えっ、マジすか?」


それを聞いて、漆原も慌てて後に続く。


「酷くないっすか、これ?先に着いてるなら着いてるって、一言言ってくれれば。別に俺達、遅刻したわけじゃないのに・・・。」


ボヤく漆原に


「とにかく急ごう。」


そう答えた友紀は建物の通用口に、飛び込んだ。