あの打ち合わせ以降、友紀の業務は、三友コーポレ-ションとの折衝がメインになっていた。


「営業本部長にもご報告したが、いい話だと大変喜ばれていた。あのモールに出店出来れば、ウチの首都圏店舗の中の旗艦店にもなりうると営業本部も湧きかえっている。杉浦さん、よろしく頼むよ。」


上機嫌の村田室長から、例によって肩をポンと叩かれて


「はい。」


と友紀は答えたものの


(私にとっては、たまたま取引先から持ち込まれた、本当に降って湧いたような話だったのに、どんどん会社の期待が膨らんできて、参ったなぁ・・・。)


困惑とプレッシャ-を感じていた。もっとも村田の方も、友紀にはいい顔をしながら、裏では滝に


「杉浦さんはまだ営業に回って数か月だろう。こんな重要な案件を彼女に任せて大丈夫なのかね?」


などと漏らしていた。


「営業に回って、間もないということなら、私も同じです。室長はもっと間もないのではありませんか?」


「いや、それはそうだが・・・。」


「この件は、杉浦が取引先から掴んで来たんです。彼女の功績です。だったら彼女に担当させるのが当然じゃありませんか。」


「う、うむ・・・。」


「私は杉浦を信頼しています。彼女なら、絶対にやり遂げます。」


そう言い切った滝に


「わ、私ももちろん彼女を信頼しているよ。でも彼女はまだ若い、それになんと言っても女性だ。」


尚もゴニョゴニョと言い募る村田。だが


「それ以上のご発言は慎まれた方が。女性蔑視と取られかねません、コンプライアンスに抵触すんじゃありませんか。」


滝に釘を刺され、言葉を失う。


「念の為、申し上げておきますが、相手の三友コーポレ-ションさんの担当も女性です。それに私も上長としてバックアップは当然いたしますので、ご懸念には及ばないと思います。では。」


そう言って一礼すると、まだなにやら言いたそうに、口をもにょもにょさせている上司の前を離れた。


(大丈夫、杉浦なら・・・やれる。)


滝は心の中で、自分に言い聞かせるように言った。