結局その日、明奈が帰宅したのは23時を優に過ぎていた。


「お帰り、今日も遅くまで大変だったね。」


「うん、全く人使いの荒い会社だよね。さすがに疲れちゃった、お風呂湧いてるかな?」


「ああ。俺は先に入らせてもらったから。」


「わかった、じゃ私も入って来るね。雅也も疲れただろうから、先に休んでてよ。」


笑顔でそう言うと、明奈はバスル-ムに向かって行く。そんな妻の後ろ姿を、雅也は複雑な思いで見送る。


(村雨は、明奈は今日は定時で帰ったと言っていた。今から6時間以上前に会社を出たということになる・・・。)


そのタイムラグが意味するものは何か?美和の奥歯にモノが挟まったような物言いが甦って来る。


(まさか・・・明奈が浮気・・・?いや、そんなはずはない。彼女に限ってそんなことは・・・。)


昔から明奈はよくモテた。付き合う前はもちろん、自分と付き合い始めてからも、言い寄る男は後を絶たなかった。だけど、人当たりはソフトだけど、興味のない相手に対するガードは鉄壁だった。というより、やや男性不信気味ですらあった。


そんな明奈と浮気と言う言葉が、雅也にはどうしても結びつかなかった。


(俺の考えすぎだ。)


そう結論付けて、雅也は寝室に向かった。ベッドに入り、しかし目は冴える一方だった。


(でも明奈は、ウソをついた・・・。)


もちろん美和がウソをついている可能性はある。だが、大学時代の仲間とは言え、そんなに頻繁に連絡を取り合ってるわけでもない彼女が、わざわざ連絡してきて、そんなウソを自分に告げる理由はないはずだ。


やがて明奈が、隣のベッドに入って来た。話し掛けようかと迷ってるうちに、妻の寝息が聞こえて来る。


(疲れてるんだな・・・。)


雅也は思う。が


(でも本当は、何で疲れてるんだ・・・?)


ふと、そんな疑問が湧いて来る。そんな自分の下卑た発想が嫌で、大きく首を振ると、雅也は布団をかぶった。