手の込んだ料理をする気はすっかり失せ、買い込んだ食材をとりあえず、冷蔵庫に納めると、自分の為のお手軽料理を作り、雅也は1人食卓についた。


TVを見ながら、黙々と食べ進んでいると、また携帯が鳴り出した。今度は誰かとディスプレイを見ると、そこには久しぶりの名前が。


「おう、しばらく。」


『うん、久しぶり。』


電話の相手は村雨美和、雅也と明奈にとっては、大学のサークル以来の親しい仲間だ。卒業後、3人は別々の企業に就職したが、美和は1年ほど前、縁があって明奈と同じ会社に転職した。


「美和と同僚になれるなんてなぁ。」


明奈は喜んだものだ。


『今、大丈夫?』


「ああ。」


『明奈、帰ってる?』


「いや、今日も残業だって。さっき連絡があった。」


『そうなんだ。あの子、残業多いの?』


「ああ、最近じゃ、なかなか夕飯も一緒に食べられないよ。まぁ仕事頑張ってるんだから、仕方ないけどさ。」


『そっか・・・。』


その美和の声音に引っ掛かるものを感じた雅也は


「村雨、どうかしたか?」


と尋ねるが


『うん・・・。』


美和は煮え切れない返事を繰り返す。そして、少し間を置いて、遠慮がちに切り出した。


『明奈ね、今日は定時で帰ったよ。』


「えっ?」


『明奈とは部署が違うから、なんとも言えないんだけど、ウチの会社、最近残業にうるさくってさ。そんなに残業出来なくなってるんだよ。』


それは意外な告白だった。言葉を失う雅也に


『あの子は役職者だから、私に比べれば、遥かに忙しいし、残業もそれなりにはあるんだろうけど、でも毎日なんて、ありえないよ。』


美和の告白は続く。


『雅也、こんなこと言いたくないけどさ、自分の愛する奥さんのこと、もっとちゃんと見てなきゃダメだよ。私に言えるのはここまで、じゃ。』


「村雨!」


雅也は慌てて呼び掛けるが、美和は構わず電話を切った。


(どういうことなんだよ。村雨、いったい何が言いたいんだよ・・・?)


雅也は混乱していた。