周囲の応援もあり、恋人同士になった雅也と明奈は、その後も順調に交際を続けた。


大学在籍中に、お互いの両親への挨拶も済ませ、事実上の婚約状態だった2人が正式に籍を入れ、結婚したのは25歳の時だった。


お互いの職場にほど近い場所に愛の巣を構え、洗濯は明奈、掃除は雅也、そして料理は交代制と家事もきっちり分担し、生活費は


「とりあえず、俺の給料で賄えばいいよ。」


と雅也。


「えっ?そんな、悪いよ。」


共働きである以上、当然明奈も応分の負担をするつもりだったが


「いいんだ。もちろん全額じゃなくてもいいから、明奈の給料は貯金に回してくれよ。いずれ子供が生まれて、マイホ-ムも考えなきゃいけないんだから、その時になって慌てないようにさ。」


「そっか、じゃそうさせてもらう。でも必要な時は遠慮しないで言ってよね。」


「ああ、わかった。」


こうして結婚生活をスタ-トさせた雅也と明奈。平日はもちろんお互い仕事だが、それが終われば、2人とも脇目もふらずに帰宅。そして休日になれば、ピッタリ寄り添って、いつでも、どこへ行くにも一緒。それは、周囲もうらやむほどのアツアツぶりだった。


雅也自身はすぐにでも子供が欲しかったのだが


「私ももちろん将来は、雅也の赤ちゃんが欲しいけど、今はまだ2人きりの生活を楽しみたいし、仕事も頑張りたいから。」


という明奈の希望に寄り添い


「そうだな、俺達はまだ若いし、慌てることはないもんな。」


雅也も笑顔で頷いた。


そんな結婚生活も1年、2年と過ぎて行くうちに、2人の会社での立場はだんだん重くなって行き、一緒に過ごす時間が、少しずつ減って行くのは、やむを得ないことだったが、しかしそれでもそれが、2人の仲に影を落とすことはなかった。


「明奈、最近だいぶ忙しいみたいだな、大丈夫か?無理してないか?」


帰りが徐々に遅くなって来ている妻を雅也は気遣うが


「ありがとう、でも大丈夫。雅也もそうだろうけど、後輩も増えて来て、その分責任も重くなって、でも今、凄くやりがいもあるし。それに疲れて帰って来ても、愛しの旦那さんの顔を見れば、そんなの一発で吹っ飛んじゃうし。」


明奈は笑顔でそう言うと、甘えるように夫に身を寄せる。そんな妻を抱き寄せながら


「ならよかった。食事出来てるから、着換えてきちゃえよ。」


という雅也も笑顔。


「うん、ありがとう。じゃ、急いで着替えて来るね。」


そう言って、雅也の頬にチュッとしたあと、明奈はクロ-ゼットに軽やかな足取りで向かって行った。