「とにかく俺は女に限らず、人を信じることに疲れた。それでも人は残念ながら1人では生きていけない。仕事も1人でやりきれるわけがない。だから仕方なく、仕事上では人を信頼するように努力してる。前にも言ったと思うが、ただそれだけだ。」


「・・・。」


「だから、俺のどこを見て、そんな勘違いをしたのかはわからんが、そんな不毛な感情を俺に抱くのは止めておけ。わかったら、もう早く帰れ。」


突き放すように言って、席に着き、パソコンに目をやった滝に


「陽葵ちゃんもですか?」


友紀の厳しい声が飛ぶ。


「陽葵ちゃんのことも信用してないんですか?」


「何を言ってるんだ、それは・・・。」


「陽葵ちゃんに向ける次長の笑顔は、絶対に偽りの笑顔なんかじゃない。陽葵ちゃんを心から愛し、慈しんでる笑顔です。私はあの笑顔を浮かべた次長が、本当の次長だと思っています。次長にだって、信じたい人、愛したい人はやっぱりいるんです。違いますか?」


「年端もいかないあんな無邪気な姪っ子にくらい、俺だって心を許すさ。」


「じゃ、咲良さんは?」


「杉浦・・・。」


「咲良さんにも、次長は同じように笑顔を向けてました。」


詰め寄るように言って来る友紀を、さすがに滝はもて余した。


「わかった。」


遮るように言った滝は


「俺もさすがに親兄弟や親族くらいは例外的に信用してる、それは認める。だがそれだけだ、だからすまんが杉浦、お前もその例外の中に入ることはない。いいな。」


突き放すような口調で続けた。その言葉に、一瞬悲しそうな表情を浮かべた友紀を見て、滝の心は一瞬痛む。だが


「わかりました。今日は自分の気持ちを、次長にお伝え出来たことで満足です。では、お先に失礼します。」


気丈にそう言うと、友紀は一礼して、踵を返した。その後ろ姿を複雑な思いで、滝は見送っていたが、やがて席に着くと、パソコンに目を落とした。