こうして、この日の話は終わり、引き上げようとエレベ-タ-に乗り込んだリトゥリ一行だったが


「今日はご苦労さん。俺はもう少し、この辺を見て回りたいから、君たちは先に戻って、室長に今日の報告をしてくれないか。」


滝が言い出した。


「えっ、それは次長が直接された方が・・・。」


漆原が驚いたように言うが


「俺が戻った後じゃ、室長は帰っちゃってるかもしれないからな。」


と滝は笑う。


「そうですね、わかりました。では先に戻ります。」


友紀もつられたように笑うと、そう答えた。


「もちろん電話は入れておく。戻るのは少し遅くなるかもしれないから、待っててくれなくてもいいぞ。先に上がってくれ。じゃ。」


そう言い残して、滝は歩き出して行く。


「次長、なにかあったんですかね?」


さすがに漆原も、商談中の滝の様子がおかしかったことに気付いていたようだ。


「商談が終わった後、もう少し周辺を見て回るって、最初からおっしゃってたから。さ、帰ろう。」


漆原の疑問に直接答えることなく、友紀は彼を促して、パーキングに向かう。


(次長・・・。)


でも、その胸中の不安は、実は漆原より、よっぽど大きかった。


一方、友紀たちと別れた滝は、改めて周辺の状況を見て歩く。競合施設との距離、施設への鉄道、バスでのアクセス、近隣マンションの有無・・・もちろん友紀たちが作成した資料にも、多くのことは記載されているが、滝は改めて、それを自分の目で確かめる。


(ここは・・・いける。)


滝は徐々にその確信を深めていた。だがそこに


「どう、お気に召した?」


その声にハッと立ち止まる滝。彼の中で、ビジネスモードが急激に萎んでいく。


「明奈・・・。」


微笑みながら近づいて来る明奈に、滝は複雑な視線を向ける。


「ここは元々、老朽化したマンションが数棟建ってたの。それをウチの会社が、買い上げて、更地にして、巨大商業施設に生まれ変わらせることにした。まさに、社運を賭けたプロジェクトなのよ。」


「いつ、転職したんだ?」


同業ではあったが、滝の知っている明奈の勤務先は、この会社ではなかった。だから、彼女が登場して来るなんて、予想だにしていなかったのだ。


「1年半くらい前かな。前の会社でいろいろあって、居辛くなっちゃってさ。まぁ身から出た錆だから、仕方ないんだけど。」


そう答えた明奈は、一瞬表情を曇らせた。