週が明けて、しかしオフィスでの滝は、週末の友紀との邂逅など、まるでなかったかのように、全く今までと変わらなかった。もっとも友紀の方もきっとそうだろうと思っていたから、特に戸惑いを覚えることもなかった。


そして、午後になると滝と友紀は連れ立って外出したが、漆原も同行しているので、やはり特別な会話が2人の間で交わされることはない。


3人が向かったのは、建築が進む大型ショッピングモ-ルだった。テナントを募集していると、ある取引先経由で売り込みがあり、友紀と漆原が調査と折衝にあたっていたが、有望な候補地という結論に達し、滝に報告を上げ、それを受けて、滝が現地に足を運ぶことになった。


車を降り立った3人。滝は友紀の案内で、まず周辺の状況を見て回る。


「幹線道路に面している立地はありがたいが、週末の来店客が集中する時間帯には、渋滞を引き起こしそうだな。所轄の警察がうるさいことを言って来る可能性がある。」


「わかりました、その辺はオーナ-の方に当たっておきます。」


滝の指示を手帳に書き込みながら、友紀は頷く。


「もう少し見て歩きたいが、そろそろ向こうも到着する時間だな。」


「はい。」


「お待たせするわけにもいかん。後は終わってからにして、行こう。」


そして3人は、建物の中に入った。彼らがエレベ-タ-から降り立つと、既に到着していた何人かの面々が、一斉に彼らを見た。


「お待たせして申し訳ありません。」


友紀が彼らに声を掛けると


「いえ、滝次長のことですから、まずここに入られる前に周辺をじっくり御覧になると思っていましたから。」


滝のやり方は十分、承知してますといわんばかりに、仲介業者の担当者は笑顔で答える。


「次長、本日はご足労ありがとうございます。」


「いや、こちらこそお世話になります。」


「杉浦さんから既にお聞き及びでしょうが、ここはリトゥリさんにとっては、願ってもない立地とフロア面積だと思いますよ。ウチとしても自信を持って、ご紹介出来ます。詳しいことは、これからご説明いたしますが、まずはオーナ-会社の方をご紹介いたします。テナント誘致責任者の宇田川(うだがわ)さんです。」


担当が紹介した男性が一歩前に出ると


「三友コーポレ-ションの宇田川です。本日はよろしくお願いします。」


と言って名刺を差し出す。滝はその名刺を丁重に受け取ると、次に自分の名刺を差し出し、挨拶を交わした。