「ところで、杉浦はなんでこんなところにいるんだ?」


滝に尋ねられた友紀が


「何でって、ここら辺は私の地元なんで、ちょっとお昼食べに来たついでに、ぶらついてたんです。」


と答えると


「そうか、杉浦はこの辺に住んでいるのか?」


滝は驚く。


「実は俺も実家がこっちの方なんでな。とにかくこの姪っ子の顔を見るのが、今の俺の何よりの楽しみなんで、ちょくちょく来てしまってるんだ。だとすれば、こうして出くわしても不思議はないな。」


そう言って笑った滝の表情は、会社での彼とは別人のように穏やかだった。


「じゃ、そういうことで、そろそろ失礼するよ。これからこの子の誕生日プレゼントを買ってやる約束をしてるんで。」


「うん、そうだよ。マ-くん、パパの代わりに陽葵の大好きなぬいぐるみ、買ってくれるんだよね。」


滝の腕の中で、ニコニコと笑って言う陽葵に、友紀も笑顔になり


「そうなんだ。よかったね。陽葵ちゃんはお誕生日が来ると、いくつになるのかな?」


と聞くと


「5歳!」


と言って、まだまだ小さい片手を目一杯広げて、友紀の前に出す。


「そっか。じゃ、叔父さんにウンとおっきなぬいぐるみ買ってもらうんだよ。」


「うん!」


大きく頷いた陽葵の愛くるしい仕草に、友紀は思わず


「可愛いですね。」


と滝に言ってしまう。


「この子の笑顔を見てると・・・やっぱり本当に悪い人間なんて、いないのかもしれないと、ふと思ってしまう。」


その滝の言葉に友紀はハッと彼に顔を見るが、滝の方は陽葵に視線を向けたまま。


「それじゃ、失礼します。」


気を取り直して、滝たちに告げた友紀に


「バイバイ、お姉ちゃん。またね~。」


陽葵が満面の笑みで、手を振ってくれる。その言葉と仕草に、思わず相好を崩す友紀。


「バイバイ。今度、お姉ちゃんと遊ぼうね。」


「うん。」


頷いた陽葵の頭を撫で、滝と咲良に一礼して、友紀は立ち去って行く。


「子供が好きな子なんだね。」


その後ろ姿を見送りながら、咲良が言う。


「笑顔がとっても素敵で可愛くて・・・なんか似てるね。」


「えっ?」


「あんたの・・初恋の人に。」


「お前も・・・そう思うか?」


滝がポツンと呟くように言ったその言葉に、咲良が思わず彼の横顔を見ると、その視線は、遠ざかって行く友紀の後ろ姿をじっと見つめていた。