「咲良、お前何言ってるんだよ。」


「何って、雅也の会社の方にご挨拶するのは、姉として当然でしょ?」


「あ、姉って・・・。」


「なに、違うって言うの?」


「いや、まぁそうだが・・・。」


そんなやり取りを、友紀はポカンとして眺めていたが、ハッと我に返ると


「次長のお姉さまでしたか?杉浦友紀と申します。滝次長には、いつも大変お世話になっております。」


慌てて挨拶を返した。


「フーン、雅也もちゃんと真面目に仕事してんだ。」


「お前、いい加減にしろよ。なぁ杉浦、コイツは姉って言っても義理の姉貴だ。俺の兄貴の嫁さんだ。それも、コイツとは子供の頃からのご近所さんの腐れ縁で、むしろ俺の方がずっと面倒見てやって来たんだ。だから、そんな丁寧な挨拶なんて必要ないぞ。」


「冗談言わないで。面倒見てやってたのは、私の方じゃない。私と慎也(しんや)さんがいなかったら、あんたなんか中学、高校もまともに卒業出来てないでしょ。」


「なにぃ。」


「ちょっと、ママもマ―くんもダメじゃない、こんなところでケンカしちゃ。お姉さんに笑われるよ。」


ヒ-トアップして来た滝と咲良を呆れ顔で陽葵がたしなめる。この光景に思わず友紀が吹き出すと


「すまんすまん、陽葵の言う通りだな。」


笑顔で彼女を抱き上げると


「杉浦、みっともないとこを見せてしまったな。コイツとは本当に小さい頃から、こんな感じでやり合って来たから、つい・・・。」


友紀を見て、滝は照れ臭そうに言い訳をする。


「そうでしたか。実は私、みなさんが一緒にいらっしゃるのをお見掛けするのが2回目で。」


「やっぱりそうだったのか。それで2人を俺の家族と勘違いしたのか。」


「はい。」


「まぁこの姪っ子は、本当に自分の娘のように、目の中に入れても痛くないくらいに可愛いが、コイツは・・・ウチの兄貴みたいな物好きじゃないと、とても嫁さんには出来ん。」


「何ですって!」


目くじらを立てる咲良を見て、ニヤニヤと笑う滝。こんな雰囲気の滝を、初めて目の当たりにする友紀は、正直驚いていた。