「それにしても今朝の次長の大爆発には驚いたよなぁ。」


「うん、あの人もあんなに感情を高ぶらせることがあるんだな。」


「いくら怒られても仕方ありません、私たちのミスですから。」


殊勝な表情の友紀に


「だけどあの言い方はないよ。さすがにあのあと、室長に怒られてたから。」


葉那が教える。


「えっ、そうなんですか?だから帰った時、次長優しかったんだ。」


それでわかったと言わんばかりの漆原に


「それに、疲れたからって、今日は帰っちゃいました。」


友紀が続けると


「さすがに室長に怒られたのが、堪えたんだろ?これで次長が少しは大人しくなってくれれば、あの室長も少しは役に立つってもんだ。」


別の社員が答えて、座に笑いが起こる。


「だとしたら、友紀たちのミスも満更悪いことじゃなかったってことだね。」


「葉那さん、止めて下さい。本当に青かったんですから、私たち。」


友紀が真剣な顔で返すと


「ごめん、ごめん。」


葉那がおどけた仕草で謝り、座にまた笑いが起こる。


その後、呑み会は賑やかな雰囲気で続いて行き


(こうやって、みんなと飲んでいられるようになって状況になって、本当に良かった。)


改めて友紀は胸をなで下ろす。


(でもみんなの希望はたぶん叶わないな。今朝はたまたま機嫌が悪かっただけ。普段は絶対あんな言い方しないし、だけど仕事に対する厳しさは絶対に変わらないはず。そうじゃなきゃ、滝次長じゃないよ・・・。)


そんなことを考えながら、友紀はグラスを口に運んだ。


そして、その友紀の予感は全く正しかった。


翌日、出社して来た滝は、なにか吹っ切れたような表情をしているように友紀には見えた。


そして、朝礼が終わるのを待ちかねたように部下たちに矢継ぎ早に指示や確認を始めた。もちろん口調は冷静に、しかし内容は厳しく。


「ウワ~、私たち、やっぱり甘かったね。」


小声でぼやく葉那の声が聞こえて来て


「はい、滝次長はやっぱり滝次長ですから。」


友紀はそう答えると、ニコリと微笑む。その笑顔を葉那は少し眺めていたが


「友紀、なんか嬉しそう。」


とポツリ。


「えっ、何ですか?」


「友紀は・・・次長に懐いてるよね?」


「懐いてるって・・・私、ペットじゃありませんよ。」


「だって、その表現がピッタリなんだもん。」


そう言って笑う葉那を見て、友紀の頬は思わずプッと膨らんでいた。