友紀と漆原が、トラブルをなんとか解決して、取引先から戻って来た時、既に定時の退勤時間は過ぎていて、半分以上の社員は退社していたし、村田室長の姿もオフィスになかった。


だが、滝は当たり前のように残っていた。デスクの前に漆原と共に立った友紀の報告に、静かに耳を傾けた滝は


「わかった。取引先にご迷惑をお掛けしてしまったのは、申し訳ない限りだが、それでもご納得いただいたのなら、なによりだ、2人共ご苦労だった。」


そう言って、2人を労った。


「ありがとうございます、本当にご心配とご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。」


改めて、頭を下げた友紀に


「なんだかんだ言って、俺も室長も出る幕はなく、自分たちで解決したんだ。よくやった。あとは、同じミスを繰り返さないように気を付けろよ。」


朝の様子が嘘のように、穏やかに言った滝は


「2人とももう今日は上がれ。」


と言い、自分も手早くデスクの上を片付けると


「俺も今日は疲れた、たまには早く帰ってノンビリするか。じゃ、お先に。みんなも早く帰れよ。」


本当にオフィスを出て行った。


「どうなってるんですかね?」


朝との態度の違いと、彼にしては珍しい早帰りに、漆原が首をひねっていると


「さぁ?でも早く帰ることはいいことだよ。次長は働き過ぎなんだから。さ、私たちも次長の許可が出たから帰ろ。葉那さんたち、いつもの店で待ってるって。」


友紀は笑顔で言った。


会社を出た2人が店に着くと


「友紀、ウル、お疲れ~。」


2人に気付いた葉那が手を振って、出迎える。


「なんとかなったって?」


「はい、お蔭様で。」


「それは何より。じゃ、まずは一杯。」


青木がすかさず、2人のグラスにビールを注ぐ。


「じゃ、友紀ちゃんと漆原の無事リカバー完了を祝して乾杯~。」


もはや、乾杯の理由など何でもよく、座は盛り上がっている。