沈黙が流れる。ひとりは俯き、もうひとりは相手を唖然として見ている、そんな時間が流れて行く。


「ごめん・・・。」


その沈黙を破った雅也の声に、ハッと明奈は顔を上げる。だけど、その表情には、悲しみと憂いが浮かんでいる。この状況で発せられた「ごめん」の後に続くであろう彼の言葉に、希望を見いだせなかったからだ。


だが


「考えたこともなかった。」


雅也が実際に発した言葉は、明奈が覚悟したそれとは違っていた。


「えっ?」


「紀藤が俺に好意を抱いてくれてるなんて・・・考えたこともなかった。」


「どうして?」


「君がモテてるのはもちろん知ってたさ。でも俺が逆立ちしても敵わなそうなカッコいい先輩やイケメンの連中がアタックしても、ほとんど相手にしてないから、俺なんか、とてもお呼びじゃないって・・・。」


「滝くん・・・。」


「君とは仲のいいサークルの仲間として、楽しく過ごせれば、それでいい。そう思ってた。だってさ、下手なこと言って、気まずくなって、紀藤と一緒にいられなくなったら・・・その方がよっぽど嫌だったから。」


雅也は、そう言って、照れ臭そうに笑った。


「意気地なし。」


そんな雅也に、思わず明奈は口走っていた。


「ごめん。」


反論の余地もなく、雅也は頭を下げる。その仕草にふっと笑みを浮かべた明奈は


「そんな意気地なしな、でもとってもピュアで優しい雅也くんを明奈は好きになりました。お返事を聞かせて下さい。」


真っ直ぐに雅也を見た。その視線に応えるように、明奈に向き合った雅也は


「青天の霹靂だけど、とっても光栄です。今まで、勇気がなくてごめんなさい。でも俺は初めて会った時から、紀藤のことが好きでした。だから・・・是非俺と付き合って下さい!」


そう言って頭を下げた雅也に


「ダメ。」


という明奈の言葉が降って来る。思わぬ言葉が降って来て、驚いたように自分の顔を見る雅也に


「明奈。」


と一言。


「えっ?」


「紀藤じゃなくて、明奈。」


小首をかしげながら、明奈は言う。その意味がわかった雅也は


「明奈、ちゃん。」


と彼としては、かなり勇気を振り絞って呼び掛けたが


「明奈。」


明奈は首を振ると雅也を見つめたまま、念を押すように言った。その視線にたじろぎそうになりながら、でも意を決したように


「・・・明奈。」


雅也は彼女を呼んだ。


「はい。」


顔をほころばせながら、返事をした明奈は、次の瞬間、雅也の胸に飛び込んで来た。