「今まで何回かお邪魔したけど、滝くんの部屋って、いつもきれいだよね。」


「いや、そんなことは・・・。」


君が来るから、慌てて片付けたんだよとも言えず、雅也が困っていると


「それにこのノートも男子とは思えないくらい几帳面にきれいにとってあって・・・凄く見やすい。滝くんに頼んでよかった。じゃ、ちょっと机借りるね。」


そう言って、明奈は机に向かった。その日はノートを写し終わると、丁寧にお礼を言って引き上げて行った明奈だが、数日後、この日のお礼ということで、雅也を食事に誘って来た。断る理由など当然なく、思わぬ僥倖を得て


(たまたま紀藤と一緒のあの講義を取り、たまたまキチンとノートを取っていた俺・・・でかした、偉い!)


内心浮かれていた雅也は、緊張しながらも楽しいひと時を過ごした。


「ちょっとノート見せただけなのに、なんか悪かったね。」


別れ際、恐縮しながら言った雅也に


「ううん、見せてもらったところ、バッチリ試験に出たんだもの。このくらい当然だよ。」


と答えた明奈は


「今日は楽しかった。じゃ、またね。」


笑顔で続けると、雅也に軽く手を振って帰って行く。


(可愛い・・・。)


その後ろ姿を夢見心地で見送っていた雅也。


(俺、あの子と2人で食事したんだよな。そんな男、少なくとも大学では他に絶対いないよな。)


明奈と2人きりのこの時間は、彼を有頂天にさせた。


(思いっきり自慢してぇけど、妙な嫉妬の対象になりたくねぇし、それに所詮はたった1回の栄光なんだから・・・。)


そんなことを考えながら、雅也も家路についた。


夏休みに入り、キャンパスには週に1回のサークル活動の時に顔を出すだけになった。仲間達の顔を見られるのが楽しみで、雅也は欠かさず足を運んだ。そして明奈も欠席することはなかった。


活動が終われば、先輩たちと、時にはタメの連中と遊びに行ったり、呑みに行ったり・・・。そんないかにも大学生らしい生活を送っているうちに、明奈は雅也と一緒に帰路につくようになった。


「だって滝くんと帰り道一緒だから。」


明奈はあっけらかんと答えたが


「お前、どういうことだよ?」


「まさか、紀藤と付き合い始めたのかよ?」


と周囲から詰められた雅也は


「とんでもない、本当にたまたま家が同じ方向なだけだから。」


と必死に弁明に努めなくてはならなかった。