「だ、大丈夫だよ。それよりどうしたの?」


『実は・・・滝くんにお願いがあってさ。』


「俺に出来ることなら喜んで!」


(バカ、落ち着け!)


雅也は自分に言い聞かせるが、声はどうしても上ずってしまう。


『あの・・・明日の試験なんだけど、私、ちょっとノート取り忘れてた所があってさ。それで滝くんはキチンとノート取ってたのを思い出して、見せてもらえないかなって。』


「そんなのお安い御用だよ。」


何を頼まれるのか、緊張していた雅也は、ホッとすると共に即答。


『ありがとう、助かる~。じゃ、これから滝くんの部屋にお邪魔させてもらうね。』


「へっ?」


しかし次の明奈の意外な一言に、雅也は思わず間抜けな返事をしてしまう。


『今、学校だから20分くらいで着けると思うから。』


「なら、今から俺が持ってくよ。」


『そんな悪いよ、私の為に勉強中断させちゃ。じゃ、今から向かいます。』


「あっ、もしもし・・・。」


慌てる雅也の声も聞かず、電話は切れる。


(紀藤が来る、今からこの部屋に・・・。)


ちなみに雅也は大学進学に伴い、現在一人暮らし。友人たちのたまり場になっていることは否定できず、明奈も来たことがあるが、当然その時は1人ではない。でも今は・・・。


(な、なにを想像をたくましくしてるんだ、俺は。紀藤は俺に気を遣って、ここまでノートを取りに来るだけ。別に彼女が部屋に上がるわけじゃない。そう、それだけのことじゃないか・・・。)


思わぬ事態に動揺しながら、しかし懸命に自分を落ち着かせようとする雅也だが


(そ、そうだ。一応片付けないと・・・。)


結局はバタバタしている間に、インタ-ホンが鳴る。


「は、はい、今開けます・・・。」


そう答えると、雅也はドアに急ぐ。


「滝くん、急にごめんね~。」


ドアを開くと、そこにはサークルのマドンナと言える女子が満面の笑みで立っている。


「い、いや大丈夫だよ。」


「じゃ、ちょっと失礼するね。」


そう言って当たり前のように上がり込もうとする明奈に


「えっ?ちょっとなにしてんだよ。」


慌てて雅也は声を掛ける。


「だって中に入らないと、ノート写せないじゃん。」


「えっ、コピ-とるんだろ?」


「何言ってるの?明日の試験、自筆ノートのみ持ち込み可だから、コピ-なんてとっても意味ないでしょ?では失礼します。」


唖然とする雅也に、ニコリと微笑み掛けると、明奈は中に入った。