「いったいどうなってるんだ!」


突然、滝の怒声が響いたオフィス。社員たちが一斉に振り向くと、憤怒の表情で立っている次長の前で、友紀と漆原の2人が小さくなっている。


「僕の責任です。杉浦さんからの指示で、僕が先方に連絡することになっていたのに、失念してしまいました。」


「いえ、私の指示も不明瞭でしたし、そのあとの確認を怠ったのが原因です。申し訳ありません。」


ある取引先への連絡不行き届きからトラブルが発生し、滝に呼びつけられた2人は、いきなり怒鳴りつけられ、釈明を始めるが


「2人で傷をなめ合って、何の役に立つんだ!だいたい・・・。」


お互いをかばい合う態度が気に障ったと見え、滝はますますヒートアップ。しばらく激怒が続き、その間、友紀も漆原もひたすら、彼の言を拝聴するしかなかった。


10分近く続いたお説教から、ようやく解放された2人は、後始末の為にオフィスを飛び出したが


「確かに僕らが悪いんですけど、でもいくらなんでもあの言い方はないですよね。なんかよっぽど虫の居所が悪かったんじゃないですか?だとしたらとんだトバッチリですよ。」


そう言って、漆原は唇を尖らせる。


「仕方ないよ、私たちの責任なんだから。それよりも急ごう。」


そう言って漆原を慰めた友紀だったが


(確かに次長は仕事に厳しい人だけど、あんなに大声を出して、部下を叱責するような人じゃない。まさかとは思うけど、昨日の帰り、私が次長の気に障ることを言ってしまったから、それで・・・。)


つい、そんなことを考えてしまう。


一方、滝も友紀たちが出て行ったあと、村田に呼びつけられていた。


「滝くん、困るよ。部下のミスを指摘、叱責するのは上司の役目だが、言い方というものがあるだろう。今のは完全にパワハラと認定せざるを得んね。」


自分の目の前でのコンプライアンス逸脱は許さんと、言わんばかりの村田の厳しい視線に


「申し訳ありません。」


滝は素直に頭を下げた。デスクに戻りながら


(確かに昨夜からの苛立ちを、杉浦たちにぶつけてしまった。それもプライベ-トの・・・俺は上長失格だ。)


内心で自省する。苛立ちの原因はわかっている。明奈と再会してしまったからだ。


(結局、俺は全然吹っ切れていない。情けねぇ、な・・・。)