その日の勤務を終え、友紀が帰宅の途に着こうとオフィスを出ると、滝が1人、自販機の前の休憩スペ-スでコーヒ-を飲んでいることに気が付いた。


「次長、お先に失礼します。」


友紀が声を掛けると、滝は彼女の方に顔を向け


「おう、お疲れさん。」


とだけ言うと、また視線を逸らした。なにやら物思いに耽るような、その横顔に思わず吸い込まれるように、友紀は彼に近付いていた。


「あの、次長・・・。」


その声にハッと友紀を見た滝は


「なんだ、帰ったんじゃないのか?」


やや慌てたように言った。


「ご一緒してもいいですか?」


遠慮がちに聞いた友紀に


「好きにしたらいい。」


相変わらずの滝節が返って来る。その返事を聞いた友紀は、ミルクティーを買って、彼の横に並んだ。


並んで、黙々と飲み物を口に運んでいた2人だったが、やがて友紀が


「どうかされたんですか?」


と聞く。


「なにがだ?」


問い返す滝に


「ずっと考え事をされてるみたいなんで。」


友紀が言うと


「俺だって考え事くらいする。」


そう言って、一瞬苦笑いを浮かべた滝だが、すぐにその表情は元に戻る。


「何を考えてらっしゃるのか、お聞きしても構いませんか?」


「お前に話して聞かせるような、大した話じゃない。」


「でもお疲れのご様子なんで、ちょっと心配なんです。」


「嫌われ者の上司の心配をしてくれるなんて、お前も変わってるな。」


「次長は嫌われてなんかいません。」


「?」


「厳しいことをおっしゃるから、最初の頃は確かにみんな敬遠したり、身構えてましたけど、今は間違ったことや理不尽なことはおっしゃらないってわかりましたから、むしろ・・・私は尊敬してます。」


真っ直ぐ自分の顔を見て、そう言った友紀に、滝は驚いたように彼女の顔を見る。そして


「やっぱりお前は変わってるな。」


と、しみじみとした口調で言った。


「どうしてですか?」


「こんなにとっつきの悪い、その上、お前達のことは信用してないと公言している上司を尊敬してるなんて、変わってるとしか言いようがないだろう。」


「女は特に信用されてないんでしたよね?」


「ああ。」


頷いた滝の顔を見た友紀は、ニコリと微笑む。その笑顔にドキリとして、滝は慌てたように視線を逸らした。