なにはともあれ、先の青木の担当物件に続いての新規出店の決定に、店舗開発室には、ホッとする空気が流れた。


「さぁ、この勢いで、出店ラッシュと行こうじゃないか。」


村田室長は部下を鼓舞しているし


「友紀のお陰だよ。私もこれで忙しくなるし。」


新店に陳列する商品選定に当たっての、商品部との連絡を担当する葉那の表情も明るかった。


「今回の件は、私は歩いていたら、たまたま美味しそうな木の実が目に入ったから、持って帰って来ただけです。その上、食べられるように最終的に調理したのは、結局滝次長ですから。」


「またまたご謙遜を。高木さんが塩漬にしちゃって、あわや取り逃がす寸前だった物件を友紀の誠実さで、なんとか引き戻せたんだから。やっぱり友紀のお手柄だよ。」


葉那は笑顔でねぎらうが


「葉那さんにそう言っていただけるのは、嬉しいですけど、その状況を打破したのも次長です。次長がいらっしゃらなかったら、私の出番はなかったんで。」


友紀は首を横に振る。


「そっか・・・私も最近やっと、次長と仕事上の話をするようになってさ。今までは厳しいし、とっつきにくいなぁって敬遠してたんだけど。いざ話してみると、まぁあんな感じは感じなんだけど、よくよく話を聞いてみると、間違ったこと、理不尽なことは言ってないし、ほら、次長はもともと販売担当だから、当然商品にも詳しいし、だから指示も的確なんだよ。」


「そうですよね。私もなんだかんだ言って、次長に助けていただいてばかりで・・・もはや次長がこの店舗開発室を支えているといっても過言じゃないと思います。」


勢い込んで、こんなことを言い出した友紀の顔を葉那は、少し眺めた後


「あれ、やけに力入ってるじゃん、友紀。さては・・・惚れた?」


といたずらっぽく聞く。


「いえ、そんなんじゃありません。」


友紀は慌てて、ブンブン首を横に振ると


「第一、次長には奥さんも子供もいらっしゃいますよ。」


と続けた。


「えっ?ウソ。確かバツイチって・・・。」


「私も葉那さんからそうお聞きしてたからビックリしました。」


そして友紀は先日、目撃した光景を葉那に伝えた。


「それ本当?」


「はい。」


「フーン・・・私の情報網に間違いはないと思うんだけど・・・これは調査が必要だな。」


真顔でそう言った葉那に、友紀は思わず吹き出していた。