だが滝は


「そこにこだわって、出店を断念するよりはマシです。」


ときっぱりと言い切った。それを受けて


「わかりました。ではこちらも前向きに検討させていただきます。」


相手もそう返事をした。


「よろしくお願いします。」


滝がそう言って頭を下げるのを見て、友紀も慌てて、それに倣った。


帰りの車中


「次長、大丈夫ですか?」


友紀は不安げに滝に尋ねる。


「何がだ。」


「営業時間の件です。時間を短くすれば、当然営業シュミレ-ションに影響が出ます。独断が過ぎたのでは・・・?」


「杉浦。」


そんな友紀の言葉を遮るように、でも友紀の方を見ることなく、


「よく押し返したな、営業時間の件。」


友紀の疑問に直接答えることなく、滝は言った。


「えっ?」


「担当者のお前が、ああ言ってくれたから、俺は自信を持って、あの妥協案を口に出来た。ありがとうな。」


思わぬ滝の言葉に、少し驚いた友紀だが


「いえ。」


と答えると、少し俯いた。そんな友紀にチラリと視線を送ると、滝は微かな笑みを浮かべて、また前を向いた。


結果として、友紀の不安は半分は当たり、半分は外れた。会社に戻った2人は、交渉内容を報告。村田にこの件を上層部に至急、諮るように要請したが


「こんな重大な変更を、室長の私にも言わずに勝手に口にするとは、なんという越権行為をしてくれたんだ。それに取締役の方々は、それぞれのスケジュ-ルで動かれてるんだ。そんな簡単にお時間などいただけないことくらい、わからんのか?」


とけんもほろろの対応だった。


「室長が替わったんだったな。」


と苦い顔で呟いた滝が、それでも懸命に食い下がった結果、村田はしぶしぶ重い腰を上げたが結局、上層部の決済を得るまで、結局3日を空費することになった。


再び、友紀を伴って、相手方を訪ねた滝は、返答が遅くなってしまったことを丁重に詫びたが


「いえいえ、無事に決まって何よりです。」


となにやら察したように、笑顔で答えた。


やがて正式な決済が降り、契約当日、正式契約を交わしたあと


「杉浦くんは初商談成立。そして私にとっても着任後の初の契約だ。いやめでたい、ご苦労さんだった。」


全てが終わり、上機嫌で握手を求めて来た室長の手を握り返しながら、友紀の気持ちは複雑だった。