「そして本日は、具体的な条件提示をいただいたと担当から報告を受けまして。ありがとうございました。」


「いえ、こちらの不手際で、ご迷惑をお掛けしてしまったことは、改めてお詫び申し上げます。また本日は突然、このようなものをお持ちして、驚かれたかと思います。」


「いえいえ、とんでもありません。急いで目を通されていただきました。」


「ありがとうございます。それでいかがでしょう?」


滝は身を乗り出す。


「2つございます。」


「何でしょうか?」


「1つは営業時間です。ご提案としては閉店時間が21時ということで、立地条件から見ても、それが望ましいとは存じます。しかしこれは以前、杉浦さんにもお話ししたと思いますが、周辺住民からの深夜営業に対する反発が強く、それが前のテナントさんが撤退される1つの原因になったものですから。」


「それは確かに伺いました。しかし、弊社といたしましては、人の流れや立地条件から見ても、あの場所は、本来でしたら、22時閉店でも十分チャンスがあると思っております。騒音等の配慮は十分にいたしますので、ご考慮いただけないでしょうか?」


友紀は食い下がる。が、滝はそれを目で抑えると


「で、もう1つのご懸念は?」


と相手を促す。


「契約期間です。前のテナントさんとは20年契約でしたが、それは昨今の目まぐるしい社会環境の変化の中、望み過ぎなのは承知しています。しかし、さすがに5年と言うのは短すぎませんか?御社としても下手したら、それでは出店経費も満足に回収できないかもしれませんよ。」


相手の言葉を受けて、友紀は伺うように滝を見た。少し黙考したあと


「契約期間につきましては、仰せの通りかと思います。5年はいかにも短い、これじゃ最初から逃げ腰と取られても仕方がない。それだったら、いっそ出店しない方がいい。」


そう言った滝は


「足して2で割る・・・ではありませんが、10年でいかがですか?」


と具体的な数字を挙げた。


「そうしていただければ、弊社としてはまことにありがたい。」


相手は頷く。


「もう1つの営業時間の件ですが、こちらはさきほど杉浦が申し上げた通り、21時閉店はこちらとしても譲れないところです。」


「・・・。」


「ですが、周辺住民の方の感情を逆なでしての出店は、もちろん弊社も本意ではありません。そこでどうでしょう?金曜日、土曜日それに休祝日前日に関しては21時閉店。その他の曜日は20時閉店ということでは?」


「次長!」


友紀は思わず声を上げた、さすがにその条件変更をこの場で出すのはまずいのではないかと思ったのだ。果たして相手方も


「それでしたら、私どもとしても検討の余地は十分にありますが、失礼ながら御社の方は大丈夫ですか?」


とやや疑心暗鬼気味に尋ねて来る。