週が明けた。朝礼で村田室長は


「とにかく新規出店のペースが遅い、店舗開発室は何をやってるんだと、上層部はかなりおかんむりの状況だ。体制が変わったのだから、みなさんにも是非、仕事に対する意識革命をお願いしたい。今までの考え方、やり方では結果は変わらない。そのことを肝に銘じて、日々の業務に取り組んでもらいたい。」


と厳しい口調で訓示した。それを受けて


「それでは、本日も1日よろしくお願いします。」


いつもの決まり文句で朝礼を締めた滝。彼自身このところ、デスクで書類とにらめっこしている時間が減り、各担当との打ち合わせや指示、あるいは取引先への外出など、慌ただしく動いている。室長の言葉を、先取りして実践しているように見える。


しかし周囲に対する態度は相変わらず。よく言えばクール、悪く言えば冷たい表情を崩すことはない。


(この前の次長の姿はやっぱり幻だったのかな?それとも私の見間違え・・・?)


コピ-を取りながら、なんとなく滝の方を見た友紀が、つい、そんなことを考えていると


「杉浦、俺の顔になんか付いているのか?」


彼女の視線に気付いた彼から、厳しい声が飛んで来る。


「い、いえ。」


慌てて友紀が答えると


「じゃ、ボサッとしてるな。」


と一言。


「はい。」


友紀は一礼して、自席に戻ろうとすると


「そうだ、杉浦。」


と滝に呼び止められ


「は、はい。」


今度は何を言われるのかと、緊張しながら、振り返ると


「今日の午後は、外出だったな。」


「はい。」


「俺も一緒に行くぞ。」


「えっ?」


「先方に条件を提示する資料はまとまってるんだろう?」


「はい。」


「なら、今日一気に決めてしまおう。」


滝の言葉に、友紀は驚いた。午後から会う取引先とは、だいぶ話が進み、今日はたたき台としての条件提示をし、それをもとに交渉を更に進めて行く。そういう予定になっていたからだ。


「今朝の室長の言葉を聞いていなかったのか?方針変更だ。」


「でもまさか急にそんな話になるとは思いませんでしたから、漆原くんが今日は有休です。」


「なにを言ってるんだ?主務はお前だろ。」


「はい。」


「だったら漆原が居ようと居まいと関係あるまい。昼飯早めに済ませて、すぐに出るぞ。」


滝の勢いに


「わかりました。」


友紀は頷くしかなかった。