(株)リトゥリは、その名の通り寝具メーカ-からスタ-トした会社だが、インテリア商品にも扱いのウイングを広げ、百貨店や総合ス-パ-、ホームセンタ-などに商品を卸している。また近年は直営店の拡大にも力を入れており、友紀の所属する店舗開発部は、まさしく新規直営店の出店を担当している部署である。


大学を卒業して、リトゥリに入社してから4年。最初は直営店の販売担当に配属された友紀は、2年後にこの店舗開発部に異動して来た。先ほどの同僚の話ではないが、商品販売と店舗開発は全くの畑違い。随分戸惑ったものだ。


(もともと関東の会社であるウチは、関西では苦戦してたのに、新次長はシェアを3倍に伸ばしたって聞いてる。間違いなくやり手なんだろうけど、それでも最初は苦労するだろうな・・・。)


ほぼペーペ-だった自分と違い、次長はこの部署のナンバ-2。それも前任の次長は彼より遥かに年上のベテランだった。プレッシャ-は半端ないだろうな、友紀は同情とも心配ともつかぬ思いを抱いていた。


ちょっと今後の打ち合わせを、そんな雰囲気で応接室に入って行った次長と室長は、結局昼休みを告げるチャイムが鳴っても、出て来なかった。


(だいぶ突っ込んだ話をしてたのかな・・・?)


昼食を終えて、戻って来た友紀たちと入れ替わりのように、ようやく食事に出て行った2人を見送りながら、友紀は思っていた。


それでも、オフィスの雰囲気は、いつもと変わらないままだった。だが、滝が食事から戻り、初めて自席に着いた途端、様子は一変した。


「ちょっと。」


滝はスタッフの1人である青木基正(あおきもとまさ)を呼んだ。


「この出店候補地の担当は君か?」


「はい。」


「なぜここをリストアップした?」


「ここはもともと、家電量販店さんが入っていましたが、半年前に撤退。現在は空きフロアになっています。下のフロアは食品スーパ-、上のフロアには100円ショップ、更にはフードコ-トもあり、数百台規模の駐車スペ-スも完備されていて、集客は十分に見込めます。」


「資料を見る限り、そう思えるな。なのに、なぜ話が停滞してるんだ?」


「オーナ-サイドと家賃の折り合いが付きません。」


「出店シュミレ-ションを見せてくれ。」


滝の言葉に、青木は自席に戻り、1冊のファイルを手にして、再び滝の前に立った。社員からファイルを受け取った滝は、難しい顔で、それに目を通し始めた。