その後、新室長による、全室員に対する面談が行われた。滝の立ち合いのもと、現状の商談の進行状況、直近1週間の行動スケジュ-ル、今後のスケジュ-ル予定、商談の場所や相手の担当者の確認等々、詳細な聞き取りが行われた。


友紀たち営業担当だけではなく、葉那のような内勤担当者も対象で、会社が今回の事態にいかに神経を尖らせているかが伺われた。


「全くとんだ、とばっちりだよな。」


「これじゃ、相手と話しする時、お茶一杯飲めないぜ。」


面談室から出て来た社員たちは、一様にうんざりした表情だった。そして最後に呼び込まれた友紀も緊張の面持ちで、アシスタントの漆原と一緒に面談室に入った。


一礼して腰かけた友紀を、眼鏡越しにギロリと見た村田は


「君が高木真美子の案件を、基本的に引き継いだそうだね。」


「はい、全てではありませんが。」


「こんなことを言って、申し訳ないが、君の担当してる案件は、いわばいわくつきだ。実際のところ、どうなんだね?」


容赦なく切り込んで来る村田に


「私が引き継いだ案件は、全て事前に滝次長がご自分で精査された上で、渡していただいた物です。今後の商談の進行につきましては私の責任ですが、現時点では何の問題もありません。」


友紀は真っすぐに新室長を見て答える。どうなんだねと言うように、村田が滝を見ると


「杉浦の担当案件については、今彼女がご報告した通りの経緯です。案件自体に問題があるなら、それは私の責任です。また問題のあった高木の担当を引き継がせる以上、誠実な人間を充てるべきだと考えました。杉浦は経験こそまだ浅いですが、その面では、私は信頼しています。」


滝の口から「信頼」という言葉が出て来て、友紀はハッと彼の顔を見た。一方、滝の言葉に頷いた村田は、今度は漆原に視線を向けた。


「君は、高木のアシスタントだったそうだが、本当に何も気が付かなかったのか?」


「はい、申し訳ありません。」


小さくなる漆原。


「これは室長もご存じのはずですが、漆原には当たり障りのない範囲でしか、業務にタッチさせていないと、高木も認めています。高木の言いなりだったという面では確かに問題はありますが、漆原はまだ入社2年目です。上司である高木に逆らえなかったのは無理はないと思います。」


ここでも漆原を庇うように滝は言った。