週明けに新井の後任として、村田洋造(むらたようぞう)という人物が、コンプライアンス推進室から異動して来た。


銀縁眼鏡をキラリと光らせ、いかにも堅物という雰囲気を漂わせ、友紀たちの前に現れた村田は


「今回の店舗開発室における一部社員による不祥事の発生は、まことに遺憾な事態です。現代の企業は、コンプライアンスを遵守することなく、存続し得ないことは言うまでもないことで、店舗開発室の社員としては、お取引先の企業やオーナ-様との関係において、いささかでも後ろ指を指されるようなことがあってはならない。今、ここのいるみなさんが、彼らのような不正を行う社員だとは、私も考えてはいないが、そういう不祥事が起こる土壌が、店舗開発室にはあったと考えざるを得ない。私が今回、室長の大任を拝命したのは、ひとえにその払拭にあると認識している次第です。みなさんにおかれても、是非この認識を共有していただきたいと思います。」


と語ると、一同を見渡し


「尚、これは蛇足の感もありますが、みなさんはリトゥリの社員である前に、1人の社会人です。社会の常識を逸脱するがごとき行動は、厳に慎んで、自覚を持って行動していただきたい。以上。」


明らかに、前室次長と高木の不倫を念頭に置いた発言で自身の言葉を締めた。


「それでは、本日も1日、よろしくお願いします。」


新室長の厳しい訓示を受けて、今までは新井前室長の締め言葉だった台詞を、滝が何事もなかったように口にしたのを受けて、開発室の面々は動き出した。


「ねぇ、なんかいよいよ息苦しい雰囲気になりそうだね。」


葉那がコソッと話し掛けて来る。厳しい滝に、堅物の新室長が加わり、ウンザリと言わんばかりの先輩に


「はい、でも仕方ないですよね・・・。」


友紀が応じると、まさかその声が聞こえたわけでもないだろうに、滝にギロリと睨まれ、2人は首をすくめて、慌ててデスクに向かった。