「それが今回、久しぶりに顔を合わせると、まさかと思うくらいに変わっていた。奴の身の上に何があったか、全く聞いてなかったわけじゃないし、前の部署でも周りと相当な軋轢を起こしていることも聞こえては来てたんだが・・・さすがに私も驚いたよ。」


「そうだったんですか・・・。」


そして流れる沈黙。友紀はふと、滝のデスクに視線を送る。


(次長に、なにがあったんだろう・・・。)


今の滝と、母の教えでもある「本当に悪い人なんて、1人もいない」が全く重なり合わない。でもそれを今、新井に尋ねても、ただの興味本位にとられるだろうし、なにより新井は絶対に教えてはくれないだろう。


「杉浦くん。」


室長の呼ぶ声が耳に入り、友紀の思いは中断される。


「はい。」


「すまなかったなぁ。」


「えっ、何がですか?」


突然謝られて、戸惑う友紀。


「君を滝に付けてしまって。ずっと、あの調子だからな・・・随分嫌な思いをさせてしまったかもしれん。」


申し訳なさそうな新井の顔を見ると、「はい」とも返事し辛くて、友紀が黙っていると


「君ならひょっとしたら、頑なに閉じられてしまった奴の心の扉を開いてやれるんじゃないか、そんな気がしたもんだからな。」


そんなことをポツンと言って来る新井。


「室長・・・。」


その言葉に驚いたような表情になる友紀。


「そんな気がした、本当にそれだけなんだ。だから、すまなかった。」


そう言って頭を下げる新井に


「いえ、大丈夫です。私、室長が考えてらっしゃるほど、次長を嫌ってませんから。」


友紀は微笑んだ。


「これはここだけの話だが。」


「はい。」


「高木くんの担当を誰に引き継がせるか、候補は君と東出くんの2人だった。どちらにするか、私が滝に相談すると『そりゃ杉浦でしょう。』即答だったな。」


その新井の言葉に、友紀はまた驚かされる。


「いろいろ言ってるが、滝は杉浦くんを買ってる。私はそう思うよ。」


「・・・。」


「性格には難あり・・・かもしれんが、奴のビジネスの手腕は確かだと私は思う。だから、大変だろうが、あの男を信じて、君も頑張ってくれ。」


「わかりました。」


自分の言葉に、友紀が頷いたのを見て、新井は安心したように笑った。