翌朝、出社した店舗開発室の面々が見たのは、きれいに片付けられ、何一つ残っていない高木真美子のデスクだった。


女子社員からは、更衣室の高木のロッカーからネームプレートが取り外されていたとの声が上がり、昨日、1度退出したはずの高木が、自分達が退社してから再び舞い戻って来て、荷物を整理し、私物を引き取って行ったことは、明白だった。


そして、その後の朝礼で新井の口から、高木が昨日付で退職したことが告げられた。


「高木さんには我が社の社員として不適切な行動があったと認められ、会社から懲戒処分が下されました。彼女はその責任を取り、依願退職した、ということです。」


更に異動した前次長にも同様に懲戒処分が下ったことを付け加えた新井は


「私は今週一杯で現職を離れることになりました。」


と淡々と告げ、社員たちを驚かせた。


「突然のことで、みなさんにはご迷惑をお掛けしますが、後任の室長は当然ですがすぐに着任されますし、高木くんの担当していた業務は、既に杉浦くんを中心に、何人かの社員に引き継がれている状況です。当面の問題はないはずですので、引き続きみなさんに置かれては、業務に専心していただきたい。では本日もよろしくお願いします。」


新井は言って、朝礼を締めた。不安な表情を隠せないまま、業務に入った友紀たち店舗開発室の面々だったが、午後を迎える頃には、何があったのかを具体的に知ることになった。


高木と前次長はいわゆるW不倫の関係にあった。その2人が結託して、出店候補地の管理企業やオーナ-から接待やリベ-トを得ていたのだ。高木が滝の言う「玉石混交」の候補地を多く抱えていたのは、特に「石」の物件からの相手側からの攻勢が期待できたからだ。


結果、高木の商談の多くは停滞し、それを目立たなくする為に、前次長は他担当者の商談を意識的に遅延させることまでしていた。会社を裏切る悪質な行為としか、言いようがなかった。


「確かに高木さんと前次長、怪しいなとは思ってたけど、まさか本当に不倫関係だったとはね・・・。」


「前次長は異動に当たって、高木さんに後始末を命じたらしいけど、彼女が本格的に動き出す前に、滝次長に仕事取り上げられて、結局身動きが取れずに、全部露見してしまったっていう結末のようだ。」


「滝次長、やるぅ・・・。」


そんなひそひそ話をしながら、社員たちが視線を向けてくるのも知らぬげに、滝は相変わらずデスクで資料を読みふけっていた。