それから数日が過ぎた。


その日、外出から戻った友紀がオフィスに入ると、なにやら慌ただしい雰囲気が。とりあえず帰社報告をと、デスクを見れば、新井室長も滝次長も席を外していて不在。


「何かあったんですかね?」


漆原の言葉に、しかし当然友紀は答えることは出来ない。


「あ、友紀お帰り。」


やや戸惑い気味に立っている2人に気付いた葉那が、声を掛ける。


「葉那さん、何かあったんですか?」


と尋ねる友紀に


「わかんない。ただ高木さんが来てるらしいのよ。」


葉那が答える。


「高木さんがですか・・・。」


「うん、こっちに顔も出さずに、直接営業本部長の常務の部屋に向かったみたい。」


「体調が戻れられて、復帰の挨拶でしょうか?」


「かもしれないけど、それにしてもいきなり営業本部長の所に行くのは、ちょっと変じゃない?」


「そうですよね。」


「その後、室長も次長も呼ばれて・・・やっぱりただ事じゃないと思う。」


その葉那の言葉に、友紀も頷くしかない。そんなことを話してるうちに、厳しい表情を浮かべた滝が戻って来た。なにやら、浮き足だったオフィスの様子に


「みんな、何やってるんだ。早く仕事に戻れ。」


一喝するように言うと、自らも何事もなかったかのように、デスクに向かう。


そんな滝に、一瞬躊躇った友紀だが、意を決して、彼のデスクに近づいた。


「なんだ?」


例によって、顔も上げずに滝は言う。


「あの・・・高木さん、何かあったんですか?」


やや遠慮がちに尋ねた友紀に


「お前には関係ない。」


滝はにべも無い。だが


「関係はあります、高木さんは私の前任者です。復帰されたらお聞きしたいこともあるし、それに高木さんにまた仕事をお返しすることになるかもしれません。」


食い下がる友紀の言葉を聞いて、滝は顔を上げると、友紀を見た。


「安心しろ。」


「えっ?」


「もうお前の仕事が、高木に戻ることはない。」


「次長・・・。」


「今、俺が言えるのはそれだけだ。わかったら仕事に戻れ。」


厳しい表情でそう告げると、滝はまた自分の世界に戻って行く。


「わかりました。」


友紀は一礼して、滝の前を離れた。