「それは確かにそうですけど、でも先輩が相手に与えた好印象も、営業マンとして、ポイント高かったと思います。」


漆原は、尚もおだてるように言うが


(それも、結局次長が私のことを、うまくお取引先に売り込んでおいてくれたからだよ。)


友紀は思っている。こうして社に戻り、今日の状況を報告する友紀の言葉を、大して興味なさそうに聞いていた滝は


「わかった。」


とだけ答えると立ち上がった。そんな滝に


「次長。」


友紀が呼び掛ける。


「なんだ?」


「ありがとうございました。」


「何が?」


「今日のデビュ-戦、大過なく終わらすことが出来ました。次長にいろいろご配慮いただいたお陰です。」


そう頭を下げる友紀に


「お取引先にご迷惑を掛けるわけには、いかないからな。それだけだ。」


滝の答えは相変わらず身も蓋もない。しかし友紀はめげずに


「それに私のことを、お取引先に売り込んでいただいてました。ですから、キチンと話を聞いていただけました。」


礼を言う。だが、滝はニコリともせずに


「そんなの言葉の綾だ。まさか今度の担当はどんくさくて、頼りにならんとは言えないからな。」


そう言い捨てるように言うと、すたすたとオフィスを出て行く。あまりの言い草に、唖然としている漆原の横で、友紀は彼の後ろ姿を黙って見送っていた。


翌日からも、滝は相変わらず、難しい顔をして書類をにらみ、気になること、納得いかないことがあると、すぐに担当者を呼び寄せて、質問を投げかける。その言葉は厳しく、傍で聞いていると、詰問しているようにも聞こえる。


彼の厳しい言動に、ある者は委縮し、ある者は身構え、ある者は嫌悪感を抱き、反発する。しかし、よくよく耳を傾けてみると、こうすべき、こうして欲しいという指示、アドバイスを適切に行っていることに友紀は気付いた。


それだけではなく、いつの間にか、やるべきことをやり、つけるべき道筋はキチンとつけている滝。その手腕に、室長の新井は絶対的な信頼を寄せているようだった。


(この人は、やっぱり凄い人なのかもしれない・・・。)


人柄はともかく・・・という注釈付きながら、友紀はそう思うようになっていた。