「まぁいい、お前にこんなことを言っても仕方ないからな。話を戻すが、さっき渡したリスト、あれは俺の目から見て、まぁ玉かなと判断した出店候補地だけを抜き出したものだ。明日からはそのリストをもとに動け、いいな。」


と言うと、滝はもう用はないと言わんばかりに、視線を友紀から外し、書類に目を落とす。


「あの・・・。」


そんな滝に、意を決して友紀は声を掛ける。


「なんだ、まだなんか用があるのか?」


めんどくさそうに顔を上げた滝に、一瞬たじろいでしまった友紀だが、すぐに思い直すと


「1つお聞きしてもいいですか?」


「なんだ?」


「私と漆原くんが今日1日やっていたことは、結局なんだったんでしょうか?このリストを朝、渡していただければ、すぐに動けたと思うんですが。まるっきり時間の無駄だったじゃないですか?」


さすがに、少し語気を鋭くして尋ねる。


「お前達に現実を知ってもらいたかったのが1つ。それに今日1日の動きを見て、お前達の能力を見極める時間が欲しかったんだ。ここまでお膳立てしてやれば、さすがになんとかなりそうかな。」


「なっ・・・。」


身も蓋もない滝の言い方にさすがに友紀も言葉を失う。


「着任初日に俺は女を信用していないと言った。」


「・・・。」


「正確に言うとな、俺は人を信用していない。まぁ女よりは男の方をまだ信用する、その程度の違いだ。」


またまた凄いことを言い出した滝の顔を、友紀は思わず見つめてしまう。


「だが、残念ながら人は1人では生きていけないことくらいはわかっているつもりだ。仕事も1人で何もかも出来ると思うほど、俺も自惚れてはいない。」


「・・・。」


「だから、仕方なく少なくとも仕事上では、俺はあくまで人を信用はしないが、信頼はするように努力はしている。だがそれは、あくまで人による。着任してから今日まで、お前と漆原を見て来て、はなはだ頼りないが、まぁ信頼はしてみようかな、そう思った、ということだ。」


「・・・。」


「なんか、俺らしくもなく、随分長話をしてしまったな。とにかくそういうことだから。じゃ、お疲れさん。」


ニコリともせずにそう言い終わると、今度こそもう友紀に目もくれようともせず、滝はデスクに向かう。


そんな滝を言葉もなく、しばし見つめていた友紀は、やがて諦めたようにフッとため息をつくと


「お先に失礼します。」


そう言って一礼すると、滝のデスクを離れた。