訳の分からぬままに、漆原からのレクチャ-を受けているうちに、あっという間に午前中が過ぎて行き、迎えた昼休憩。


いつものように降りて来た社員食堂で、向かい合った途端


「友紀、なんか大変そうだね。」


葉那に同情された。


「いえ・・・それより、なんかすいません。」


「えっ、なに?」


「後輩の私が先に、担当を持つことになってしまって・・・。」


申し訳なさそうに頭を下げる友紀。1年先輩の葉那は商品部を始めとした内部部署との連絡や調整を担当していて、まだ新規店舗開拓の業務を経験していなかった。


「なんだ、そんなことか。気にしないで、別に私、営業の方にこだわりなんてないし。それに、こんなこと言ったら申し訳ないけど、あの次長といろいろ絡むの、本当にめんどくさそうだしさ。第一、今回の件は、明らかに訳アリっぽいし。」


「葉那さん・・・。」


「だってさ、友紀。前の次長のお気に入りで、それを笠に着て、いわばお局様として、店舗開発室に我が物顔で、のさばってたあの人がさ、いきなり体調不良でお休みしますって言われて、あんた信じられる?」


声を少し潜めて、そんなことを言い出した葉那の顔を、友紀は思わず見つめる。


「高木さんの休養には絶対に裏があると思う。友紀だって、そう思うでしょ?」


「そうかも、しれませんね・・・。」


「あんた、ひょっとしたら、とんでもないことに巻き込まれちゃったのかもしれないよ。」


「そんな・・・脅かさないで下さい。」


友紀は慌てて言うが、葉那は真顔のままだった。


結局重い心を引きづったまま、オフィスに戻った友紀は、午後も漆原との話に時間を費やす。


「それにしても、高木さんって、すごい数の案件を抱えてたんだね。」


とうとう友紀は呆れた声を出してしまう。


「とにかく精力的でしたよ。人間性はいかがなものかと、下にいて俺も思わなくはなかったけど、こと仕事に関しては、手を抜かなかったし、いい物件があると聞けば、遠くても足を運ぶ労は惜しまなかったし。」


漆原の言葉には、友紀も頷けた。


「わかった。とりあえずは、漆原くんにも協力してもらって、1件ずつアポ取って、担当変更の挨拶から始めて行くしかないね。」


そう言った友紀が、ふと視線を感じて、その方を見ると、滝がこちらを見ている。


(えっ、なに?)


友紀は戸惑うが、滝は何も言うことなく、すぐに書類に目を落とした。