週が変わり、この日から、有休明けの高木が復帰予定であったが、定時になっても姿を現さない。首をひねる友紀たちに


「高木さんは体調を崩して、しばらく静養することになりましたので、ご報告します。」


朝礼で新井が告げた。


「病気?あの高木さんが?」


思わず呟いた葉那の横で、高木さんだって体調を崩すこともあるでしょうと思いながらも、友紀もなにか釈然としないものを感じていた。


そして、朝礼が終わり、デスクに着こうとした友紀を、滝が呼び寄せた。


「お呼びですか?」


滝にあまり好かれていないようだと感じている友紀は、緊張の面持ちで彼の前に立つ。そんな彼女にギロリと視線を送ると


「聞いた通り、高木が当分休養することになった。彼女が抱えていた案件は、既に俺が引き継いだ形になっているが、俺はあくまで店舗開発室の次長だ。特定の案件ばかりに深入りしてはいられない。そこでだ、お前を新たな担当者に任命する。」


厳しい表情のまま、友紀に告げた。


「えっ?」


驚きを隠せない友紀。


「アシスタントには引き続き漆原を付ける。細かいことは奴に聞け。」


「で、でも・・・。」


店舗開発室に異動して2年ほどが経つが、友紀は事務作業を主に担当していて、3か月ほど前からようやく、アシスタントとして少しづつ外に出る機会が増えて来た。そんな自分がいきなり、ベテラン高木の後任なんて無理に決まってる・・・。


そう言って尻込みしようとする友紀の機先を制するように


「これは室長のご判断だ。本当はお前じゃ心もとないが、みんな自分の案件で手いっぱいで、とても高木の肩代わりなどできん。他にいないんだから仕方ない。」


ニコリともせずに言い放つ滝。


「なっ・・・。」


「いいか、実質的な担当者はお前だが、名義上は俺が担当者だ。なにかお前がやらかしてくれると、全部俺がひっかぶらなきゃならなくなる。俺に余計な手間をかけさせないでくれよ、わかったな。」


厳しい口調で言うと、言葉を失う友紀には目もくれずに、書類に目を落とす滝。


(なんなの、この人・・・。)


さすがの友紀も腹が立って来たが


「先輩、じゃよろしくお願いします。」


漆原が割って入るように、声を掛けて来る。


「あっちの席で、打ち合わせよろしくお願いします。」


場を取り付くように言う漆原の機転に、ようやく腹の虫を抑えた友紀は、黙って一礼をして、滝のデスクを離れた。