翌日からも滝は自分のペースを変えなかった。なにやらずっと書類を見ているが、気になることを見つけると、自分のデスクに呼び寄せて質問を浴びせかけ、納得がいかないと追及、そして叱責の声が飛ぶ。


「○○、ちょっと。」


○○の部分に自分の名前が入っていると、名指しされた社員は、世にも情けないような表情になる。そして、多くの場合、さんざんにやり込められて、宿題を与えられて、ある者は半べそをかいて、ある者は憮然とした表情で自席に戻って行く。


「ホント、毎日毎日、嫌になっちゃうよね。」


「とにかくもう少し、言い方を考えてくれてもいいよね。」


「やっぱりあれはパワハラだよ。」


この日の女性陣のアフタ-5も、アンチ滝の集いと化していた。


「それにさ、明らかに女子社員に対しての方が、当たりがきついよね。」


「うん、私もそう思う。」


「この前も言ったけどさ、女子に相手にされなくて、すっかりひねくれちゃってるんだよ。」


「そんなの自業自得じゃん。」


「サイテ-。」


もはやクソミソの言われよう。彼女たちのボルテ-ジは上がる一方。


「ア~ァ、とっとと有休取った高木さんが羨ましい。」


「私も休んじゃおうかな。」


そんな声が続いたあと


「ねぇ友紀。あんた、さっきから黙ってるけど、なんか言いたいことはないの?」


葉那が水を向けて来た。


「私は・・・なんか次長に特に嫌われてるみたいです。」


少し考えて、友紀はそんなことを言い出す。


「あの男に好かれてる子なんて、1人もいないよ。」


「まぁ、好かれても困るけど。」


葉那の言葉に、笑いが起こるが


「私、一応室長から次長に付けって言われてるはずなんです。でもなんか相手にされてないって言うか、無視されてるっていうか・・・。」


友紀は周りに訴えるように言う。


「別に気にすることないよ、友紀。」


「そうそう、アイツに相手にされてないんなら、それはそれでいいじゃん。勿怪の幸いって奴だよ。」


「むしろ、羨ましい。」


だが先輩達はそう言ってケラケラ笑うと、別の話題に移ってしまう。


(確かに次長の言い方は厳しいと思うし、そこまで言わなくてもって思うことも多いけど、でも基本的に理不尽なことや間違ったことは言ってないような気がする。そんな次長にとって私は、指導するにも値しない存在ってことなのかな・・・。)


それはそれで、辛いことだな、そう思って、友紀は1人ため息をついていた。