午後の業務が始まったが、オフィスにはピリピリとした空気が漂う。明らかに次長交代の影響だ。


その滝は、室長としばらく話をしていたが、それが済むとまた、何人かの社員を自らのデスクに呼び寄せ、いろんな話をしている。


相変わらずほとんど笑みも見せず、厳しい口調で社員に問い掛け、また叱責したり、指示を与えたりしている。


「青木。」


そして滝の着任後、初めて呼びつけられた青木が呼ばれた。


「出来たか?」


デスクの前に立った青木に、何の前置きもなく、問い掛ける滝。はい、と答えた青木は書類を差し出す。一昨日に彼が指示された「数字の見直し」に関する資料であることは、友紀にも容易に想像できる。


書類を受け取った滝は、すぐに目を通し始める。「穴が開くほど見る」という表現がピッタリの様子でしばらく、書類を読んでいたが、やがて顔を上げると


「根拠は?」


と静かに尋ねた。


「はっ?」


「当初のシュミレ-ションより、年間で5%の売り上げアップが可能と、ここに書かれているがその根拠は何だ?年間5%と簡単に言うが、なんで急にそんなことが言える?まさか数字合わせじゃないだろうな?」


厳しい口調と視線を向ける滝に


「次長の指示をいただき、経費と売上見込みの両面から見直しました。この物件の近辺には、高層マンションが続々と建築されており、我が社のメインターゲットである、ヤングファミリ-層の人口流入が当初の予想以上に増えていることと、これは経費面のことですが、地元配送業者との提携により、商品配送料金が既存店より安く抑えられそうな見込みが立ったからです。」


青木は固い表情で答える。


「俺に言われてから、1日2日でわかることが、なんで今までわからなかったんだ?」


「申し訳ありません。」


もっともな滝の指摘に、青木は頭を下げる。


「まぁいい。ちょっと待ってろ。」


そう言って立ち上がった滝は新井のもとへ赴き、話をしていたが、やがてデスクに戻って来ると


「青木、すぐにオーナ-さんにアポを取れ。今からお邪魔したいと。」


と指示した。


「えっ?」


「ご提示の条件で是非契約させていただきたいので、今から次長とお伺いさせていただきたいとお伝えするんだ。急げ!」


「は、はい。」


思わぬ急転直下に、青木は慌てて電話に取り付いた。それに呼応するように


「杉浦くん、常務のスケジュ-ルを確認してくれ。ご在室なら、すぐにお目に掛かりたいと。」


今度は新井から友紀に指示が飛び


「はい。」


友紀もすぐに動き出す。