今、ふたりは友紀の家を目指して、歩いている。まだ、堅苦しい挨拶をする段階ではないのだが、娘があのマ-くんと付き合っていることを知った友紀の両親が、その運命的な出会いに驚くと共に、彼との再会を望んだからだ。


やがて鈴の森幼稚園が見えてくる。土曜日にも関わらず、賑わっている光景を見て


「あ、今日はお遊戯会の日だね。」


自ら通っただけでなく、アルバイト教諭の経験もある友紀が、思いついたように言う。


「マ-くんは来なくてよかったの?」


「兄貴が帰って来てるんだ。」


「そうなの?」


「今回は一時帰宅だけど、いよいよ単身赴任の終わりも見えて来たらしい。」


「そうなんだ、よかったね。」


「ああ、陽葵も大喜びで、兄貴にベッタリでさ。叔父さんなんて、お呼びじゃないんだよ。当たり前だが、本物のパパには敵わんさ。」


雅也は苦笑いを浮かべる。


「じゃ、マ-くんも早くパパにならないと。」


「えっ?」


「あと、あなたが転勤になったら、私はどこへでも、何があっても一緒に付いて行くから、よろしくね。」


そう言って、ニッコリ微笑む友紀に、一瞬たじろいだような表情を浮かべた雅也だったが


「ああ。」


とすぐに笑顔になった。


そして、ついに玄関の前に立つ2人。深呼吸する雅也の横で、友紀はインタ-フォンを鳴らす。


「はい。」


聞こえて来た母の美しい声に


「ただいま、雅也さん、お連れしました。」


友紀が答える。すぐに扉が開かれ


「ようこそ、さ、お入りになって。」


満面の笑みを浮かべた優美が言う。


「お邪魔いたします。」


仕事の時の冷徹さは、どこへやら。ガチガチに緊張した雅也が、ぎこちない足取りで中に入るのを見て、友紀はこみ上げてくる笑いを必死に抑える。


両親だけではなく、妹弟も揃って、出迎える中


「先生・・・大変ご無沙汰しております、雅也です。」


こんな時に名前で名乗るの変じゃない?と、内心で友紀がツッコんでいると


「マ-くん、こんなに大きくなって、立派になって、偉いわねぇ。」


優美が真面目な顔で答えるから、思わずみんなが大爆笑になる。


「いや、その・・・ありがとうございます。」


さすがに雅也も顔を赤らめ、小さくなっているから


「お母さん、雅也さんはもう32歳の大の大人。それもウチの会社の次長さんなんだから。」


と友紀がたしなめると


「ごめんなさい。つい、昔に戻っちゃって。さ、どうぞおあがり下さい。」


優美は、笑顔で彼を招き入れた。