友紀が店舗開発室を去り、そして彼女と雅也が恋人同士になってから2か月ほどが経った。


お互いに多忙な日々を過ごしている2人。特に雅也の帰りは、相変わらずで、平日は同じ会社に勤務しているのに、顔を合わせるどころか、電話やLINEもままならない。


さすがに


「もう少しなんとかならないの?」


と拗ねる友紀に


「なるわけないだろう。優秀な部下を抜かれて、とにかくてんてこ舞いなんだ。お陰で、やっと確保してた週1の早帰りデ-も吹っ飛んだ。」


さすがに雅也もうんざり顔だ。友紀もその事情はわかってはいるのだが


「むぅ・・・でもさ、離れてみて、改めて分かったけど、マ-くんはやっぱり働き過ぎだよ。少しは部下を信頼して仕事振りなよ。会えないのは寂しいけど、それ以上にマ-くんの身体が心配なんだよ。」


これが本音なのだ。


「別に部下を信頼してないわけじゃない、上司は信頼してないが。」


雅也は少しおどけた後


「それに優秀な部下は失ってしまったが、代わりに週末を一緒に過ごして、癒してくれる大切な存在が出来たからな。プラマイゼロ・・・いや大幅黒字収支だよ、俺にとっては。」


そう言って、友紀に微笑んだ。


「もう、そんな言葉で誤魔化されないんだから。」


と言いながらも、友紀は嬉しそうに雅也に身を寄せる。


仲睦まじく、寄り添って歩く2人だが、徐々に雅也の表情が、固くなって来ていることに、友紀は気付いていた。


「緊張してる?」


「それは・・・もちろん。」


「あの時以来?お母さんと会うの。」


「いや、小3の頃だったかな?誰が企画したのか、優美先生が担任だったクラスの合同クラス会があって、先生は既にお前も生まれて、大変な頃だったろうに、出席してくれた。実は『この世の中に悪い人なんか1人もいない』っていう言葉は、その時に先生が俺達に送ってくれた言葉だったんだ。」


「そうなんだ。私も幼稚園の年中さんに教えるには、ちょっと難しい言葉だなって、ずっと思ってたんだ。」


「その時、俺は先生にねだって、ツーショット写真を撮ってもらった。以来それは大切な宝物として、大学に入って、実家を出るまで、俺の部屋に飾ってあった。あんたいい加減にしなよと、母親にも咲良にも随分言われたがな。」


雅也は懐かしそうに、そして照れ臭そうな笑みを浮かべた。