「そんなこんなでウジウジしてるうちに、お前の異動が決まった。そして、さっきは上長として、喜んで、安心してお前を送り出せるなんて、恰好つけたことを言ったが、1人の男としては、お前を行かせたくない、手放したくない、そう思っている自分に、はっきりと気付いてしまった。」


「・・・。」


「あるおせっかいな奴に『信じたい人がいるなら、信じればいい。心を開きたいと思う相手には、開けばいいんだよ。』なんて説教もされて、背中押されたのもあったけど、この前、ラウンジでお前はこう言った。『もう1度、人を信じて欲しいなんて大それたことを言うつもりはない。ただ、私を信じて欲しいだけです。』って。あの言葉を聞いた時、俺はお前には敵わないと思った。そしてもう立ち止まってる場合じゃない、逃げてる場合じゃない、やっとそう思えた。お前の・・・友紀のお陰だ。」


「友紀」と初めて滝に呼ばれ、彼を見つめるその瞳からはまた涙が・・・。その涙を見ながら、滝は


「俺をもう1度、(ひと)を信じてみよう、愛してみようという気持ちにさせてくれて、そんなチャンスをくれてありがとう。友紀・・・愛してるよ。」


万感の思いを込めて、友紀に告げた。


「やっと言ってくれた・・・。」


そう言って、泣き笑いの顔を滝に向けた友紀は


「私も愛しています、マーくん・・・。」


そう言うと、滝にそっと身を寄せる。そんな彼女を抱き寄せながら


「友紀・・・その呼び方は勘弁してくれ。」


とやや困惑気味の声を出す滝だが


「嫌、絶対に嫌。私は『マ-くん』って呼びたい。」


彼の腕の中で、友紀は訴えるように言う。


「その上目遣いはよせ、ずるいぞ。」


「だって・・・。」


半分甘え、半分膨れながら、自分を見上げている恋人に


「わかった、勝手にしろ。」


滝はそう言うと、照れ隠しのように、そっぽを向く。


「えへへ、やった・・・。」


一方、そう言って、満面の笑みを浮かべる友紀に


(俺、コイツにはこれからもずっとこうやって、やられっ放しになっちゃうんだろうな・・・。)


滝はほんの少しの敗北感と、でもそれを遥かに上回る喜びと幸せを感じながら、友紀を強く抱きしめていた。