新プロジェクト「To the future」の発足が神宮寺社長の口から、社内に向けて発表されたのは、それから間もなくのことだった。


それに合わせて、新プロジェクトのメンバ-が発表され、友紀の名前もその中にあった。ただ意外だったのは、このプロジェクトの発案者とされ、プロジェクトリーダ-就任が確実視されていた神宮寺将大専務の名前が、実際にはなく、同日彼には「社長室統括」というやや意味不明の辞令が出た。ただ社長直轄部門のトップに就いたことで、いよいよ社長のお膝元で、後継修行に本格的に入ったと、社内では受け止められた。


「そういうことだったんだ。」


「先輩、おめでとうございます。」


「寂しくなるけどなぁ、こればかりは仕方がない。」


葉那が、漆原が、青木が口々に友紀に言葉を掛ける。


「ありがとうございます。営業担当になってから半年足らずで、こんなことになって、戸惑っていますが、でも決まった以上、精一杯頑張ります。店舗開発室のメンバ-としては、残り少ない時間になってしまいますが、最後までよろしくお願いします。」


友紀は同僚たちに笑顔で告げた。


それから友紀は、担当の取引先への挨拶周りを始めた。友紀の異動を知ると、どこでも残念がられたが


「御社にご迷惑をお掛けしないように、後任の東出にはキチンと引継ぎをいたします。短い間でしたが、ありがとうございました。」


ここでも友紀は、見事な営業スマイルだった。


「友紀はお取引先に信頼されて、愛されてたんだねぇ。プレッシャ-感じるなぁ・・・。」


帰社の道のり、助手席の葉那がしみじみとした口調で言う。


「そんなことありません。未熟でご迷惑ばかりお掛けしてしまった半年間だったと思います。ただ、こんなこと言っては何ですけど、前任の高木さんがあまりに問題があったから、その反動でみなさんによく見てもらえたのと、後は滝次長のご指導ご鞭撻のお陰です。」


ハンドルを握りながら、友紀は答える。


「そうか、そうだよねぇ。なんだかんだ言って、友紀には甘かったからねぇ、あのツンデレ次長。」


「えっ、ツンデレですか?」


以前漆原も同じようなことを言っていたのを思い出して、友紀は思わず聞き返す。


「そうだよ、あの人、確かに友紀には特別厳しかったけど、でも友紀のこと特別、気に掛けてフォロ-してたよね。」