その日、朝礼が終わり、友紀が自席に着こうとすると


「杉浦さん、ちょっと。」


と村田に呼び止められた。思わず友紀は、滝の方を見たが、彼は知らん顔で自分の席に着く。仕方なく、室長に誘われるままに面談室に入った。


「なんでしょうか?」


緊張を隠せずに問う友紀に


「これはまだ、ここ限りの話にしてもらいたいが、君は異動になる。」


村田は、淡々と告げる。


「どこに・・・でしょうか?」


ある程度、覚悟はしていたものの、ショックを隠せない表情を浮かべたまま、友紀は尋ねる。


「まもなく社内リリ-スされるが、この度、新しいプロジェクトが発足することになった。」


「プロジェクト・・・ですか?」


「うむ。まだ仮称だが『To the futureプロジェクト』、つまりこれから先の新しいリトゥリの事業展開を模索するプロジェクトだ。」


「・・・。」


「今回の三友コーポレ-ションさんとの契約締結は、自営店のフルスペック販売にのみ拘って来た我が社にとって、画期的なことだった。暮らしの総合コーディネ-トという今までのコンセプトは、もちろん大切にして行きたいが、それだけでは少子高齢化が進む現在の社会情勢では、早晩行き詰る。私たちは生き残るためには、大型店にばかり拘っていてはいけない。その商圏や出店候補地の客層やニーズに合わせたいろいろな形態の店を、どん欲に模索して行かなくてはならない、上層部はその結論に至った。」


「はい・・・。」


「そこで今回のプロジェクトが立ち上がることになった。プロジェクトリーダ-は神宮寺専務。以下20代を中心とした、若き精鋭を各部署から、選りすぐって、メンバ-に集めることになった。我が店舗開発室からは杉浦さん、君が選抜されることになった。」


「そうなんですか・・・。」


熱っぽく語り掛けて来る村田に、やや困惑の表情を浮かべたまま、友紀は言う。


「専務じきじきのご指名だよ。なにしろこのプロジェクト発足のきっかけは、君が作ったようなものだし、先日のプレゼンの際の堂々たる君の様子に、専務も感心されたらしい。もちろん、店舗開発室としては、君の流出は痛いし、室長の私としても、手離したくはないんだが、先日わざわざここまで足を運ばれて、是非にと直接専務から頭を下げられてしまっては、お断りするわけにはいかんからねぇ。」


(あの新店はまだ開店もしてないし、第一あのアイデアは他社の紀藤さんがくれたようなもの。プレゼンだって、滝次長が守って下さったから、なんとか様になっただけ・・・。)


興奮気味の村田を見ながら、友紀は逆に冷めた思いを抱いていた。