ふと前方を見ると、いつの間にか滑り台の列に移動した陽葵が、こちらに向かって、手を振っている。笑顔で手を振り返した2人。そして、娘に視線を向けたまま、咲良は言う。


「あんた・・・友紀ちゃん、振ったんだって?」


ずばりと聞かれて、思わず滝は咲良の横顔を見たが、すぐに


「ああ。」


と短く答える。


「なんで?あんた友紀ちゃんのこと、好きだよね?」


「そう見えるのか?明奈にも同じようなことを言われたんだが。」


「雅也・・・。」


「まぁ男女問わず、あの子に悪意や嫌悪感を持つ奴は、あんまりいないだろう。」


「ちゃんと答えなよ!」


思わず声を荒げた咲良に


「俺は・・・もう女を愛さない、信じない、そう決めている。そんな俺が杉浦に恋愛感情を抱くなんて、ありえない。」


滝はそう言い切った。


「じゃ、あんたにそう決めさせた張本人とまた付き合ってるって、どういうことよ?」


「誰から聞いたんだ、そんなこと?」


「友紀ちゃん。」


「杉浦が何を勘違いしたのかは知らないが、俺は仕事上の必要性にかられて、明奈と会っていただけで、その案件も片付いたから、それっきりだ。」


そう答えた滝の口調は、少し強くなっていた。


「なら、いいけど、さ。誤解はちゃんと解いた方がいいんじゃない?友紀ちゃん、雅也が自分より明奈さんを選んだって思い込んでて、ショック受けてたよ。」


「俺はアイツに失望されても構わない、むしろそれを望んでる。俺にアイツの思いを受け入れるつもりがない以上、そんな不毛な思いは早く捨て去るべきなんだ。それがアイツの為になる。」


ここで2人の間に沈黙が流れる。元気よく駆け回っている陽葵の姿を、しばし眺めていた2人。その沈黙を破ったのは、咲良だった。


「雅也、明奈さんのことが、あんたをどんなに苦しめ、傷付けたかはわかってる。もう誰も信じられない、信じたくない、そうあんたが思い込むのもわかるよ。でもさ・・・そろそろ勇気を出して、一歩を踏み出してもいいんじゃない?」


「咲良・・・。」


「明奈さんは確かに雅也を裏切った、それもはっきり言って、訳わかんない理由で。でも明奈さんがそうだったからと言って、友紀ちゃんが同じとは限らないじゃない。」


「・・・。」