「そんなに驚くことないじゃない。あんただって、薄々は気が付いてたんでしょ?友紀ちゃんが優美先生の娘なんじゃないかって。」


「いや・・・杉浦を初めて見た時、なんとなく既視感というか、懐かしい思いがこみ上げて来たのは確かだが、それがなんなのか、自分で思い当たるまでには少し時間が掛かった。俺達が優美先生から教わった言葉を、彼女が母親の教えだと言って、口にした時には正直驚いたし、地元がこの辺だと聞いて、ひょっとしたらとは思ったが、まさかなっていう思いの方が今まで勝っていた。」


心情を吐露する滝に


「そう言えば、友紀ちゃん知ってるってよ。伝説の『マーくん版サウンドオブサイレンス』を。」


にやけ顔で咲良が言うと


「バ、バカな。そんなわけ・・・。」


滝は顔を真っ赤にして慌てている。


「先生の結婚式のビデオに、バッチリ収録されてるって。」


「なっ・・・。」


「随分昔の話だからなぁ、私もだいぶ記憶が薄れて来てるから、今度見せてもらおうかな。」


からかうように言う咲良に


「や、止めてくれ。あんな黒歴史がまさか映像に残ってるなんて・・・。」


仕事時のクールさはどこへやら、動揺を露にする滝。だが


「黒歴史なんかじゃないよ。」


「えっ?」


「あの時のあんたの言葉で、優美先生と旦那さんは生涯パートナ-を愛し抜こうって、改めて誓い合ったんだって。そして友紀ちゃんもあのシーンを何度も見て、感動したって言ってたよ。」


一転、穏やかな表情で、咲良は言う。


「感動とか言われても、もう俺自身、かなりこっ恥ずかしいことを言ったような気はするが、具体的な内容まで、覚えちゃいねぇよ。」


「だから、今度見せてもらおうよ。」


「お前、もし本当にそんなことを先生に頼んだら、義姉弟の縁を切るからな!」


照れ隠しもあって、いよいよ語気を荒げる滝を見て、咲良は吹き出したが、また表情を改めると


「でもよかったじゃん。」


としみじみとした口調で言う。


「なにがだよ。」


「届いたんだよ、あの時の雅也の思いは。」


「えっ?」


「先生自身は、雅也の思いに応えられるはずもなかったけど、でも約30年の時を経て、確かに届いたんだよ。あんたと友紀ちゃんが出会ったってことは、そういうことなんだよ。」


「咲良・・・。」


咲良の言葉に、しかし滝の表情は複雑だった。