翌日、意外な人物が、店舗開発室を訪れた。その人物が姿を現すと


「これは、これは・・・。」


村田が椅子から飛び上がらんばかりに立ち上がると、慌てて彼のもとに近寄って行く。


「村田室長、突然お邪魔してすみません。少し、お時間いいですか?」


そう言った、村田より遥かに年下にしか見えない若者に


「ご用がございましたら、私の方が伺いましたのに・・・。さ、こちらへどうぞ。」


恐縮至極、下にも置かないといった態度の村田は、もみ手せんばかりの仕種で、その人物を応接室に案内する。


「誰ですか、あの人?」


不思議そうに尋ねて来た友紀に


「えっ、あんた知らないの?ジュニアだよ。」


呆れた声で葉那が答える。


「ジュニアって・・・えっ、じゃ神宮寺(しんぐうじ)専務ですか?」


「そう、我がリトゥリ神宮寺社長の御曹司で弱冠30歳で専務を務める神宮寺将大(しょうだい)さんよ。」


「へぇ、あの人が・・・初めて見ました。」


「そんなわけないでしょ。だってこの間のあんたのプレゼンの時、当然専務もいたでしょう。」


「そうか、そうですよね・・・。でもあの時は緊張してたから、全然周りが見えてなくて・・・。」


と宣う友紀に


「それにしたって、本社女子社員の憧れを一身に集めてると言っても過言じゃないイケメン御曹司に気がつかないなんて、あんたも相当変わってるね?」


葉那はますます呆れ顔。


「そうですかね、やっぱり・・・。」


そんなとぼけた返事をしていた友紀には、神宮寺が入って来た時に、滝が苦い表情を浮かべて、すぐに彼から視線を逸らしたのが、目の端に映ったことの方が気に掛かっていた。


神宮寺は10分程、村田と話したあと、応接室を出ると


「みなさん、お邪魔しました。引き続き、業務よろしくお願いします。」


と丁寧に室員たちに挨拶すると、イケメンスマイルを残して、去って行った。


「素敵・・・。」


見惚れている葉那の横で


「そうですね。」


と応じた友紀の相槌には、あまり心はこもってなかった。そんな神宮寺を深々と最敬礼で見送った村田は


「滝くん、ちょっと。」


と手招きすると、再び応接室に消えた。そして数分後、なぜか顔を真っ赤にして、部屋から出て来た滝が明らかに苛立った様子で、自席に着いたかと思うと


「東出、杉浦、それに漆原。」


と3人を呼び付けた。そして


「今日から東出は、杉浦のアシスタントに付け。」


「えっ?」


突然の指示に戸惑っていると


「漆原には今の東出の業務を引き継いでもらう。当面は、お前たちには3人のチームとして動いてもらう。いいな。」


そう言い渡すと、あっけにとられる友紀たちには、それ以上、目もくれず、滝は書類を手にする。


(一体どういうこと?何が起こったの・・・?)


友紀の疑問と不安に、しかし今の滝は答えてくれそうもなかった。