三友コーポレ-ションとの契約が成立した日の夜、滝はある決意を心に秘めて、明奈とレストランにいた。


「それにしても、そちらの室長さん、得意満面の表情だったよ。まるで自分の手柄みたいに。」


担当者として、契約に立ち会った明奈がおかしそうに告げる。が


「店舗開発室長なんだから、あの人の手柄であることは間違いないからな。」


滝は淡々と答える。


「欲がないのね。」


呆れたような声を出す明奈。担当者の友紀をバックアップし、私情を捨てて、自分に頭を下げてまで、今回の成約に尽力した滝。しかし次長であるがゆえに、晴れの契約の場に立ち会うことすら出来なかった。しかし滝は


「会社なんて、そんなものだろう。」


と言うと


「乾杯しようか。」


と明奈に告げる。


「いいの?私と乾杯なんて。」


驚いたように尋ねる明奈に


「ビジネスの成功を祝う為なら、いいんじゃないか?それに君にはウチの会社の新しいビジネスモデルを教えてもらったからな。」


滝は答える。


「そう、ならお言葉に甘えて。この度は、出店ありがとうございました。」


「いえ、こちらこそ、いろいろご配慮いただき、ありがとうございました。乾杯。」


「乾杯。」


2人はグラスを合わせると、静かに口に運んだ。


「でも・・・やっぱり思い出すね。」


「えっ?」


「昔、こうやって、あなたとデートしたよね。」


そう言って微笑む明奈に


「今更、何言ってるんだ。ここ1週間ほど、ほとんど毎日こうして会ってたじゃないか。」


滝は苦笑いしながら返す。


「でもお酒は飲まなかったでしょ。話した内容も、かなりビジネス寄りだったし。」


「それは仕方ないだろう。とにかく、君にはだいぶ、頑張ってもらったみたいだからな。宇田川さんから聞いたよ。だから、今日はそのお礼だ。」


「お礼なんて・・・あなたが無茶なお願いを聞いてくれた以上、私も約束は守らないと、ね。」


「明奈・・・。」


「でも、よくそちらの上層部を説得できたね。」


「杉浦が・・・よくやってくれたからな。」


その滝の言葉に、明奈の表情が曇る。


「もちろん幸運な面もあったが、俺が着任してからアイツは、ほんの数カ月の間に、2件も重要な案件をまとめ上げたんだ。それは、素直に凄いと思うし、よく成長したと思うよ。」


滝はそう言って、グラスを口に運ぶ。


「やっぱりね。」


「えっ?」


「正直、あなたの中で、杉浦友紀の株が上がるのは癪だったんだけど、でもこれはビジネスだからね。この案件、ポシャッたら困るのは私も同じだし。」


そう言って、明奈は複雑な表情を浮かべた。