夫婦の再会の場所になった弁護士事務所で、雅也は静かに明奈を待った。


やがて、両親に支えられるように姿を現した妻は、たった数日会わなかっただけなのに、別人のように、憔悴していた。その姿を見て、雅也の心は痛んだ。


(さすがに、やり過ぎだったか・・・。)


ふと、そんな後悔の念が浮かんで来た。


果たして、席に着いた明奈は


「ごめんなさい、私がバカでした。許されないことをしてしまったのは、自覚してる。あなたの私に対する怒りや失望が、どんなに大きいかもわかってる。もう、あなたの側にいる資格なんてないのもわかってる。だけど・・・お願い、もう一度だけ、チャンスを下さい。」


そう言って、明奈はテーブルにこすり付けるように頭を下げた。


しかし、雅也はそんな明奈を黙って見つめるだけ。夫が何の反応も示さないのを知った明奈は、頭を上げ


「こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれないけど、私が本当に愛している人は、雅也だけなの。その大切な人を裏切り、傷付けた罪は大きいと思ってます。だから、どんな罰でも受けます、生涯をかけて、あなたに償います。2度と愚かな過ちを犯すことなく、あなただけを愛し続けます。だから・・・離婚は、離婚だけは許して、お願いします!」


明奈の涙交じりの謝罪の言葉だけが、部屋に響く。そして再び、横の両親と共に深々と頭を下げた妻に、雅也は困惑の色を深めていた。


「失礼ですが。」


その雅也の気持ちを代弁するように弁護士が口を開いた。


「そこまでおっしゃるなら、なんで奥さんは不貞行為をなさったんですか?私には、全く解せないんですが・・・?」


「それは・・・。」


「そんなあなたを信じることが出来なくなって、ご主人は離婚を決断されたんです。信頼関係を失った夫婦が一緒にいることほど、不幸なことは、私はないと思っています。」


「先生のおっしゃることは、もっともだと思います。ですが、私には夫と、雅也と一緒に居ることが出来ない人生なんて考えられないんです。」


そう言った明奈は、また雅也の方を向いた。


「仕事は辞めます。もともと30歳になったら、家庭に入って、あなたの子供を産むつもりだった。その前に・・・最後に恋愛を楽しみたい。そんな軽い気持ちで、あの男の誘いに乗ってしまったの。」


その言葉に、愕然とした表情で、雅也は妻を見た。