「友紀ちゃん、雅也があそこまで人を信じられなくなったのは、あの女に裏切られたという事実はもちろんだけど、その理由があまりにも酷過ぎたことが、雅也の心を折ったからなの。」


「えっ?」


「それからの雅也は、あんなに仲の良かった大学時代の仲間達にも心を閉ざし、小さい頃からきょうだいのように一緒に育った私すら、もう寄せ付けようとしなかった。」


「・・・。」


「関西に転勤した後も、里帰りも全然しないで。私と旦那の結婚式も、その当日に日帰りで顔を出しただけ。その時、アイツ私に『お前、もし兄貴を裏切ったら、絶対に承知しねぇからな。』って真顔で言い放った。あんな冷たい雅也の顔と言葉を、私は見たことも聞いたこともなかった。」


そう言って、悲し気な表情を浮かべる咲良を見て、友紀は息を呑む。


「でもそんな雅也がようやくまた、私に心を開いてくれたのは、陽葵を産んでから。雅也は病院に駆けつけてくれて、私の手を握って『この子は姪っ子だけど、兄貴とお前の子なら、俺にとっても娘も同じだよ。そんな大切な宝物を産んでくれてありがとう。』って。ようやく、私を身内として信じてくれたみたい。」


「・・・。」


「実は今、ウチの旦那、単身赴任でいなくってさ。雅也は、娘に寂しい思いをさせたくないって、せっせと休日になると父親代わりに、こっちに通って来てくれてる。アイツは自分がもう子供を授かることはないって、思ってるみたいだから、陽葵を自分の娘として、精一杯愛そうと決めてるんだと思う。」


「そうだったんですか・・・。」


「そんな雅也が明奈さんと復縁なんて、絶対ありえない。だから、雅也を信じて、友紀ちゃん!」


「咲良さん・・・。」


「さっき私は、あなたが雅也のこと好きだって聞いて、正直嬉しかった。まだ、何回かしか会ってない私に、こんなこと言われても迷惑かもしれないけど、今の雅也を救ってあげられるのは、立ち直らせてあげられるのは、友紀ちゃん、あなたしかいないと思う。友紀ちゃんが優美先生の娘さんだから、言ってんじゃないよ。こうやって、あなたとお話して、あなたという人を見て、私はそう思ってる。そしてたぶん・・・雅也もそう思ってるはずだから。」


「えっ?」


信じられないという表情を浮かべる友紀に


「私、アイツのことは、よくわかってるつもりだから。なんて言ったって、私、雅也の姉ですから。」


咲良はそう言って、笑顔を見せた。