その夜、友紀は地元でたまに通うカフェで、人を待っていた。やがて、息を弾ませ、扉を開けて入って来たのは咲良だった。席で手を振って合図をすると、友紀を認めた咲良が、笑顔を浮かべて近づいて来る。


「ごめんね、待った?」


「いえ。それより私の方こそ、こんな時間にすみません。陽葵ちゃん、大丈夫ですか?」


「うん。こういう時は、私の親と旦那の親が、競い合って面倒見てくれるから。」


「そうですか、なら安心しました。」


笑顔を交わし合った2人は、相向かいに座る。


「友紀ちゃんもやっぱりここ、よく来るの?」


「はい。ここは地元では有名ですからね。」


「そうだよね。で、何にする?」


そんな会話を交わしながら、オーダ-を済ませたあと、自分と滝、更に夫で滝の2歳上の兄である慎也の3人はいずれも鈴の森幼稚園の卒園生で、3人とも優美の受け持ちクラスの園児だったことを告げた咲良は


「それにしても、まさか友紀ちゃんが本当に優美先生の娘さんだったとはね・・・。」


感に堪えないといった口調で言った。


「実はこの前、あなたに会った後、雅也と話したんだよ。あの子、あんたの初恋の人に似てるねって。」


「は、初恋、ですか・・・?」


「そう、アイツの初恋は5歳の年中さんの時。お相手はその時の担任だった武田(たけだ)優美先生、つまりあなたのお母さん。」


その咲良の言葉に、友紀は茫然と彼女の顔を見つめる。


「ませたガキでしょ?とにかくアイツと来たら、登園したが最後、優美先生の側から離れないんだから。園でも有名でさ。」


と笑った咲良は


「でも、私たちの卒園を待たずに、優美先生は結婚して、退職されることになった。それを聞いた時の雅也はもう大泣きでさ、私と旦那で必死になだめたのを覚えてるよ。」


そう続けた。


「それでも諦め切れなかったんだろうね。アイツ、よりにもよって、先生の結婚式に待った掛けようとしたんだから。」


「えっ・・・?」


「先生が、私たちクラスの園児たちを、結婚式に招待してくれたんだよ。それで親に連れられて、私たちは式に参加した。そこで牧師さんが『この婚姻に意義のある者は、すみやかに申し出られよ。』ってお決まりのセリフを言ったら、雅也は『はい』って手を挙げて、ノコノコ前に出てっちゃてさ。大人たちはみんな真っ青だよ。」


楽しそうに語る咲良の前で、友紀は再び茫然とする。