翌日、友紀は三友コーポレ-ションとの契約の為に、奔走していた時に発生した代休消化で、珍しく平日の休みになった。


午前中をのんびり過ごし、午後は母親と久しぶりにランチとショッピングを楽しむことになり、2人は家を出た。


「なんか、お母さんと出掛けるの久しぶり~。」


心弾ませる友紀が、笑顔で母に話し掛ける。


「そうね、あなたがずっと忙しかったからね。お昼は何にする?」


そんな娘に、優美も柔らかい表情を向けて聞く。


「パスタの美味しいお店を見つけたんだ。お母さんにもきっと喜んでもらえるはずだよ。」


「そう、楽しみね。」


それは絵に描いたような、仲睦まじい母娘の姿だった。このところ、もやもやした気持ちを抱いて、毎日を過ごしている友紀は、自らが「癒し」と位置付けている母との時間が嬉しかった。


そのあとも、いろんな話をしながら、駅を目指していた2人の目に、鈴の森幼稚園が見えてくる。


「今日は水曜日だから、幼稚園も午前中までね。」


お迎えの母親たちが、たむろしているのを見て、優美が言う。


「そうだね。でも今は、預かり保育があるから。残る園児もいるからね。」


「そうか・・・私たちの頃は、幼稚園で預かり保育なんて、考えられなかったから、水曜の午後はちょっと息抜き出来る時間だったんだけど、今の先生は大変ね。」


「お父さんと初めて出会ったのも、水曜の午後だったんでしょ?」


「あら、よく覚えてるわね。」


母がそう言って、頬を赤らめるのを、友紀は微笑ましく見る。ちなみに大学時代のバイトでは、授業の関係もあって、専ら預かり保育の担当だったが、自分にはそんな出会いの気配すら全くなかった。


子供を出待ちしながら、おしゃべりに花を咲かせる母親たちの横を2人が通り過ぎようとすると


「あれ?友紀ちゃん。」


と呼び掛けられ、振り向くと


「あ、咲良さん。」


咲良が笑顔で手を振っている。


「こんにちは。」


「今日はお休み?」


「はい、代休いただいたんで。」


そんな会話を交わして、友紀の横の優美に視線を向けた咲良は、ハッと息を呑んだような表情になった。


「私の母です。お母さん、私が今、お世話になってる上司のお義姉さんで・・・。」


友紀が母に咲良を紹介しようとすると


「優美先生、ですよね・・・?」


咲良が母の名を口にするから、友紀は驚いて横を見た。優美は少し訝しげな表情で、咲良を見ていたが、やがて


「ひょっとして・・・中島咲良ちゃん?」


とパッと表情を明るくして尋ねる。


「はい。先生、覚えてて下さったんですね。」


「みんなの顔は、誰一人忘れてなんかいないよ。」


「感激です、ありがとうございます!」


「本当、久しぶりだね。咲良ちゃん、元気だった?」


「はい、これでも一児の母になりまして、娘が私の後輩になって、この幼稚園に通ってます。」


「そうなの・・・。」


お互い嬉しそうに、懐かしそうに、そんな会話を交わしている母と咲良を、友紀はポカンとした表情で眺めていた。