そして、出て来た料理をあっと言う間に平らげ、食後のコーヒーに申しわけ程度に口をつけると


「行くぞ。」


と立ち上がる滝。急な出発指示に、飲んでいたコーヒーにむせている漆原を


「大丈夫?」


友紀が気遣っているのも知らぬ気に、会計を済ませ、領収証はしっかりもらって、滝は運転席に納まる。


友紀たちが慌てて乗り込んで来たのを確認するや、すぐに発車。


「ちょ、まだシートベルト・・・。」


漆原が焦っているのを見て、思わず友紀は吹き出しそうになるが、滝は全く無反応。車は次の目的地に向かって走り始める。


それからも滝はパワフルだった。漆原に状況を確認し、取引先相手には如才なく対応しながら、要所は外さない。


必要以上の長居をすることもなく、また車上の人に。そんな上司に慌ただしくくっついて行きながら、友紀は今更なことに気付いた。


(私、何の為にここにいるんだろう?)


考えてみると、朝ちょっと話して以降、滝は自分に一言も話し掛けて来てない。


確かに昨日


「別にお前に付いてなんか欲しくないが、室長に言われて仕方なく。」


とは、面と向かってはっきり言われたが、それにしても・・・。


もっとも漆原とも会話は交わしているが、その内容はもっぱら業務の話だけで、いわゆる雑談は全くない。


(徹底してる、この人・・・。)


そうこうしているうちに、予定の目的地を全て周り終え、車は本社の地下駐車場へ。


「予定時間通りだな。」


滝の言葉に、ふと時計を見れば17時。見事に退社時間ピッタリだ。


(この人、全部計算済・・・?)


友紀がやや唖然としながら、滝を見ていると


「室長には俺から報告しておく。2人とも、今日はこのまま帰っていいぞ。お疲れさん。」


そう言い残して、車を降り、歩き出した滝は、ふと足を止め


「杉浦。」


と呼び掛けた。ここまでガン無視だったのに、急に呼び掛けられて驚く友紀。


「監視役、1日お疲れさん。」


「えっ?」


「高木がお前からの報告を首を長くして待ってるんだろ?今日1日、俺がなにをしてたか、見たままを話してやれ。じゃあな。」


そう言って、皮肉げな笑みを残して、滝は去って行く。


その後ろ姿を呆気に取られて、見送っていた友紀だったが、ふと我に返ると、猛烈に腹が立って来た。


「何なの、アイツ・・・。」


そんな言葉が思わず、ついて出る。


「先輩。」


横の後輩の声に、振り向く友紀。


「俺、先輩がキレたの、初めて見ました。」


「漆原くん・・・。」


「気持ちはわかります。店舗開発室の癒やし、杉浦友紀先輩をキレさせるなんて、相当性格悪いですね、あの次長。」


呆れたような漆原の言葉に、友紀は平静を取り戻すと、思わず苦笑いを浮かべていた。