「ねぇ、お兄さん何してんの?」
暗闇でよく見えなかった。
突然脇道から人が飛び出してきて、私の姿を隠すように後ろに立った。
「僕はその子に用事があるんだよ。突然逃げ出すなんて酷いじゃないか。一緒に帰ろうよ」
この人は、何を言っているの?
私に用事?
見たことも会ったこともない初対面なのに?
帰るって一体どこに?
とにかく恐怖で体が固まってしまう。
もう足が動かない。
違うと言いたいのに、声も出ない。
「この男、本当に知り合い?」
体はそのまま、首を捻って私に問いかけてくるパーカーのフードを被った男の人。
暗くて顔は見えなかったけれど、声はまだ幼く感じた。
私は声が出ない代わりに、必死に首を横に振る。
「この子あんたのこと知らないって。あんたストーカー?警察に連絡するけど、いいよね?」
パーカーの男の人は、スマホをチラつかせて相手を睨みつけていた。
「……チッ」
“警察”って言う言葉に怯んだのか、鋭い視線に恐れをなしたのか、舌打ちをして男の人は暗い住宅街へと逃げていった。



