「忘れ物」
「そ、そっか」
教室に戻ってきた理由は、忘れ物らしい。
ガサゴソと自分の机の中をあさって、無事に見つけたのか何かをポケットにしまっていた。
屈んだ時にズレて苦しくなったのか、体勢を戻したあとクッと左手でネクタイを緩めていた。
なんだかその仕草が色っぽく見えて、胸がドクンッと波を打つ。
「……じゃあな」
「あっ、うん、またね」
おまけにまた私の目を見て“じゃあな”なんて。
天地くんが教室の外へと姿が消えた今もまだドキドキが止まらない。
「ちょっと瑠莉!アイツとは最近話してないって言ってなかった!?」
今の私たちのやり取りを近くで見ていた友香ちゃんは、私の肩をがっしりと掴んで問いただすように体を揺さぶる。
あまりにも勢いが良いせいで頭がガクンガクンと揺れている。
「と、友香ちゃ……す、ストップ!」
目が回りそうになり、助けを求めると「ごめん」と手を止めてくれた。