「怪我は?」



心配してくれているのか、助けてくれた男の人はそう問いかけてくれた。


私は首を振る。


怪我はしていない。


……けれど、触れようとしたその手を振り払ってしまった。


触れられるのが怖い。


さっきの電車の中での出来事がフラッシュバックして、体が震える。


その事に気づいたのか、その男の人はサッと手を後ろにしまって1歩私から離れた。


そして距離を保ったまま、問いかけられた。



「家はどこ?」


「……っ」



答えたいけれど、声が出ない。


声が出ないことに気づいたのか、その人は私が答えやすい質問に変えてくれた。



「スマホは持ってんの?」



コクンと頷く。


いつでも連絡が取れるようにと親がスマホを持たせてくれていた。


今日もちゃんと持ってきている。



「親は家?」



その質問にも首を縦に振った。


今日は日曜日。


仕事はお休みで家にいるはずだ。


時間的にもまだ寝てもいないはず。